シリア北部ではいよいよトルコ国境の要衝であるアイン・アルアラブ(クルド名「コバニ」)の市内にイスラム国(ISIS)が侵入し、クルド人の民兵部隊「人民防衛隊」(YPG)をほぼ席捲しつつある。今後、イスラム国はトルコ国境までを押さえることになりそうだ。同市の内外に残された約1万3000人のクルド人住民が虐殺される恐れがあると、国連は警告している。

印が示す場所がアイン・アルアラブ。トルコとの国境に接している(Google Maps)

 国境の北側ではトルコ軍が展開し、越境の準備をすでに整えた。トルコはシリア国内に緩衝地帯の設置を提案しており、NATO主導の有志連合という形を望んでいる。このプランにはフランスが賛成の意を表しており、アメリカとイギリスは「検討に値する」との立場をとっている。ただし、オバマ大統領は現時点まで、米軍の地上軍の展開はしない方針を堅持している(もっとも、同じく地上部隊の派遣を否定しているイラク戦線においては、軍事顧問としてすでに特殊部隊を中心に約1600人もの米軍兵士を送り込んでいる)。

 空爆だけでイスラム国を撃退できていない状況に、米政界では米軍地上部隊のシリア派遣もやむなしとの声がちらほら出始めてきたが、いまだ主流にはなっていない。現在、アメリカはトルコに軍事行動を強く働きかけている模様で、今後の展開は未知数だが、いずれにせよトルコがどう動くかで状況は大きく変わってくるだろう。なお、マーティン・デンプシー米軍統合参謀本部議長は10月14日に、20カ国以上の軍の幹部と会合を行う予定とのことである。

アメリカは自分たちのために対外政策を決める

 ところで、米軍による空爆の是非については、主に「それがシリアの状況にとって良いのか、悪いのか?」との観点で語られることが多い。良ければ「空爆支持」となるし、悪いとなれば「空爆反対」となる。その是非についてはまた稿を改めたいと思うが、ここで指摘したいことは、そうした観点だけのアメリカ支持あるいはアメリカ批判は、現実にはあまり意味を持たないということだ。

 なぜなら、状況を変える力のある国は事実上アメリカだけであり、そのアメリカを動かすのはアメリカ国内の事情、すなわち米議会や米世論の動向だからである。アメリカはシリア人のためではなく、自分たちのために対外政策を決める。