40度を超える日が続く未曽有の猛暑に、ロシアが悲鳴を上げている。
猛暑によって約840カ所で山火事が発生し、20万ヘクタールの森林が燃えている。森林火災によって50人以上が焼死した。
モスクワで私は、市民がパニック状態寸前になっている雰囲気を肌で感じている。
「敵軍」のように火事がモスクワに攻め込んで来ている。郊外の別荘に住むモスクワ市民は屋根に井戸の水をかけるなどして、火事から逃れようとしている。中には絶望して逃げ出す人もいる。山火事が迫っている地域は非常事態を宣言し、政府の援助を求めている。
猛暑が経済に打撃、手を打てない政権
メドベージェフ大統領とプーチン首相は、「猛暑」というまったく予想しなかった危機との戦いに取り組んでいる。だが、国民はその取り組みを評価していない。
猛暑はいつか収まるだろう。問題は、その経済的な損害である。
農産物は干ばつで大きな打撃を受けている。穀物の収穫は2009年の9700万トンに対し、2010年は7200万トンほどになりそうだ。ほとんど30%の削減である。
小麦など穀物の内外需要の割合は、ロシア国内が7700万トン、輸出用が2200万であった(2009年)。今年は輸出が1200万トンまで縮小される見込みだ。国内価格も高騰するに違いない。
干ばつにやられているのはロシアの中央地方、ボルガ川周辺、ウラル山脈の地域である。一方、ロシア南方の農家はもう収穫を終え、小麦などの値上がりを期待しながら売買を抑えている。その結果、卸売価格が日々上がっている。このままいくと、秋には価格が2倍になる可能性が高い。食糧価格の上昇は物価の高騰を招き、インフレの悪循環を起こすとの懸念が根強い。
山火事や干ばつが起きるのは、天変地異の一種であるから仕方がない。しかし、経済的な打撃を抑えるのは、政治の役目である。メドベージェフ政権は、効果的な対策を俊敏に打つことが求められている。
だが、政府の動きは遅い。穀物が不足しつつあるのは物流インフラの未整備のせいである。政権は責任者を批判したり解任したりして政治力をアピールするが、国民の反応は冷たい。
次期大統領選を控えて政局は不安定な状態に
国民の不満が強くなりつつある政権だが、その内部を見ると、まるで山火事が飛び移ったかのようである。今まで表面化しなかった対立が激化している。
先日、メドベージェフ大統領直属の「市民社会人権問題審議会」のパムフィーロワ委員長が辞任届を提出した。きっかけとなったのは、あるインタビューだった。