もう当分、米中両海軍のせめぎ合いについて書くことはないと思っていたが、やはり甘かった。
7月23日、ハノイで開かれたASEAN地域フォーラム(ARF)でクリントン国務長官が、南シナ海領有に関する中国側の主張を完膚なきまで論破したからだ。
先週の欧米・東南アジアの新聞は、「米対中政策の転換」「ベトナムの大勝利」などと大騒ぎだった。ところが、例によって日本のマスコミは、一部を除き、ARFでも北朝鮮関連報道にしか関心を示さない。実に情けない話ではないか。
今回は「また海の話か」と叱られるのを覚悟で、南シナ海の話を書かせていただく。今やこの問題は米中海軍のレベルを超え、米中両国間の戦略的対立に発展しつつある可能性があるからだ。まずは事実関係のおさらいから始めよう。
国務長官の爆弾発言
クリントン米国務長官は7月23日、ARF会合後の記者会見で、米側の発言内容につき概ね次のとおり述べた。ちょっと長いが、内容は極めて重要なので、そのポイントを要約してみたい。
(1)他国と同様、南シナ海における航行の自由、アジア共通海域へのアクセスと国際法の尊重は米国にとっても国益である。
(The United States, like every nation, has a national interest in freedom of navigation, open access to Asia’s maritime commons, and respect for international law in the South China Sea.)
(2)米国は強制ではなく、協力的外交による領土問題解決を支持し、いかなる武力の行使・威嚇にも反対する。
(The United States supports a collaborative diplomatic process by all claimants for resolving the various territorial disputes without coercion. We oppose the use or threat of force by any claimant.)
(3)米国は中立的立場を守るが、南シナ海での領有権などの主張は国連海洋法条約に基づくべきだと考える。
(While the United States does not take sides on the competing territorial disputes over land features in the South China Sea, we believe claimants should pursue their territorial claims and accompanying rights to maritime space in accordance with the UN convention on the law of the sea.)
(4)米国は2002年のASEAN・中国による「行動宣言」を支持し、関係国が新たな「行動規範」に合意するよう慫慂(しょうよう)するとともに、同宣言に従ったイニシアティブと信頼醸成措置を促進する用意がある。
(The U.S. supports the 2002 ASEAN-China declaration on the conduct of parties in the South China Sea. We encourage the parties to reach agreement on a full code of conduct. The U.S. is prepared to facilitate initiatives and confidence building measures consistent with the declaration.)