ここ1年、中国では「文学は商売になるのか」という議論が白熱している。

 よほど金儲けのネタが尽きたか、はたまた大きな需要の変化を物語るのか。特に上海では、商売に直結しない文学は変わり者のたしなみと思われてきたフシがあっただけに、この変化は注目に値する。

日本の小説、特に恋愛小説が人気

造形的な平積みで演出された売り場(筆者撮影、以下同)

 上海では書店が今最も熱いスポットだ。薄暗くて埃だらけの店内に、無造作に並べられた味も素っ気もない書籍――、そんなイメージはすっかり過去のものになった。

 商売のやり方もだいぶ変化してきた。店内では、タワー状かつ造形的に積み上げられた書籍の山が売り場を演出する。書籍には色とりどりのカバーや帯が巻かれ、装丁へのこだわりも見られるようになった。

 そしてフロアを埋め尽くす人、人、人。「立ち読み禁止」などとみみっちいことは言っていられない。一日中べったりと床に張り付いて動かない「座り読み」ですら、店側は黙認だ。

 市民の書籍への渇望もまた一段と深化。それを埋めるようにして、新手のジャンルが台頭する。例えば哲学書。かつて書籍と言えば、「政治モノ(党の宣伝モノ)」か、あるいは「こうすれば成功する」などのビジネス書が主流だった。だが、金融危機と前後して、ある書店では、「成功」の書籍が並べられていた棚が、「哲学」に取って代わられる現象が。

加熱する文学書売り場。べったり座って動かない客
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 昨年末、稲盛和夫氏の文章を集めた『活法』(中国語版『生き方』)が売れ筋上位にランクインしたが、これは、人生や経営を哲学から見直すという市民の心の変化を物語るものだろう。

 旺盛な需要は海外小説をも飲み込む。上海の大手書店、上海書城に張り出された「今週の海外小説売れ筋ランキング」(2010年8月1日現在)は、村上春樹氏の『1Q84』が堂々のトップ。他にも東野圭吾氏、渡辺淳一氏、黒柳徹子氏と、トップ10作品中7作品までが日本の作品である。

 また、中国文学の空白を埋めるかのように、恋愛小説にもかつてない動きが見られるようになった。文学の中に儲けの道を探る――。中国では、これこそが新ビジネスの合い言葉だ。

日本文学の版権を買い漁る中国人女性経営者

 さて、この7月に東京ビッグサイト(東京都江東区)で「第17回 東京国際ブックフェア」が開催された。このイベントの視察を目的に、上海から1人の女性経営者が東京を訪れた。上海の中堅出版社の社長を務める方雨辰さんだ。