韓国の中堅財閥、東部(トンブ)グループは、韓国産業銀行など取引金融機関と、2014年7月末までに満期が来るグループ企業の社債償還資金などの支援を受けることで合意した。東部グループと産業銀行などは再建問題を巡って昨年から熾烈な攻防を繰り広げている。当面の危機は回避したが、水面下ではさらに激しいやり取りが続いている。

 「当社にとっての財務的な負担、事業のシナジー効果などを検討した結果、買収しないことを決めた」

 2014年6月24日、韓国の鉄鋼最大手ポスコの権五俊(クォン・ノジュン=1950年生)会長は、就任100日の節目の記者会見で、こう切り出した。

「セット買収」を要請されたポスコ、価格で折り合えずに断念

 権五俊会長は、3月に会長に就任すると同時に、難題を抱え込んだ。韓国の国策銀行である産業銀行から、東部製鉄の仁川工場と東部発電唐津(タンジン)を「セット買収」するよう強い要請を受けたのだ。

 唐津発電は、有望事業ではある。セット買収は、案件としては悪い内容ではなかったが、何しろ価格が高すぎた。産業銀行は当初、1兆2000億~1兆5000億ウォン(1円=10ウォン)での買収を打診したという。

 権五俊会長は就任前から、前任の会長が進めた「多角化・拡大路線」の軌道修正を公言していた。相次ぐ大型M&A(合併・買収)で悪化していた財務体質を立て直し、「本業回帰」で強いポスコの復活を図ることを使命としており、1兆ウォンを超える買収はこうした方針とは合致しなかった。

 一方の産業銀行も、簡単にはあきらめられない事情があった。「東部グループ再建」は産業銀行にとっての最重要課題だったのだ。

 産業銀行とポスコとの間で3カ月以上も価格交渉が続いた。産業銀行が作るファンドとの共同買収などの案も検討したようだ。

 韓国メディアによると、ポスコは5000億ウォン前後での買収を逆提案したが、9000億ウォン以上を求める産業銀行との差はあまりに大きかったという。

 「ポスコ買収断念」。この発表と同じ日、産業銀行は、東部製鉄を事実上債権銀行団の管理下に置くことを発表した。

事実上の銀行管理で、ひとまず「7月経営危機説」を回避

 東部製鉄は2兆6000億ウォンもの負債を抱える。7月に社債の償還も迫っていた。ポスコへのセット売却が消えたことで市場で「製鉄会社の経営問題」が一気に広がることを防ぐための措置だった。

 産業銀行は、さらに、7月中に社債の償還期日を迎える他の東部グループに対する支援でも合意した。市場で出ていた「東部グループの7月経営危機説」はとりあえず、食い止めたことになる。