ラッセル・クロウ主演の『ノア 約束の舟』(2014)が劇場公開中である。題名通りの誰もが知る旧約聖書の記述は、過去にも『天地創造』(1966)などで映像化されているが、今回、ダーレン・アロノフスキー監督は、人間としての葛藤を軸に独自の視線で描いた。

多くのイスラム諸国で上映禁止に

トルコから見たアララト山

 しかし、そのことが、欧米で議論を巻き起こし、イスラム諸国では上映禁止が相次いでいる。こうした現実そのものが、一神教徒が少数派の日本で、宗教について考え直すチャンスを与えてくれる。

 そんな方舟が漂着した地との伝説があるのがアララト山。トルコ東部に位置する富士山ともよく似た名峰である。

 そして、東方に広がるアララト盆地から見上げるアルメニア共和国の人々にとっては心の故郷。かつてこの地は広大な領土を誇るアルメニア王国の一部だったのである。

 「アルメニア西部」は、17世紀以降、オスマン帝国の支配下にあり、民族紛争が繰り返されてきた。そんななか起きたのが、第1次世界大戦中の大量殺戮。

 この「トルコによるアルメニア人“ジェノサイド”」は、アルメニアの首都エレバンにある「虐殺記念館」で詳細に語られ、世界中へ渡っていったアルメニア人の子孫の1人アトム・エゴヤン監督の『アララトの聖母』(2002)でも描かれている。

 その事実についての議論は絶えることがない。

 一方、「アルメニア東部」は、17世紀にペルシャ領、19世紀前半からはロシア領だった。そして、第1次世界大戦のさなか、革命へと向かうロシアから分離独立、「ザカフカース民主連邦共和国」を経て「アルメニア民主共和国」となり、戦後のセーヴル条約では、さらに「西部」もアルメニア人のものになることになった。

 ところが、内戦状態に陥っていたトルコのムスタファ・ケマル(アタチュルク)の臨時政府はスルタンの結んだ条約を拒絶、「革命」進むなか新たに結ばれたローザンヌ条約で、トルコは「失地回復」を果たし、アルメニアへの領土割譲はなくなっていた。

 既に赤軍に攻め込まれアルメニア民主共和国も崩壊しており、大国家の夢は一転、ソ連の一部という小さな存在となってしまったのである。