領土主権問題で強硬姿勢を貫き、周辺諸国との緊張を高める中国の行動原理は何なのか。

 もちろん、いろいろな解説が可能だろう。例えば、国内に深刻な貧富の格差拡大や汚職腐敗問題、さらに環境破壊問題を抱え、国民の不満が政権に向くのを避けるために、外部に緊張を作り出し国民の関心の目をそらせるというのは、定説のように語られる。

 また、人民解放軍が独断で行動し、いたずらに緊張を高めているという見方もある。東シナ海に中国が設定した防空識別圏の、日本のそれと重複する空域で中国の空軍機が自衛隊の航空機に異常接近した事案などは、まさにこれが当てはまるだろう。

 しかし、冷静に考えれば、中国経済はリーマン・ショック後の急速な景気回復を図って実施した超大型投資の後遺症から、現在は深刻な成長鈍化に直面しており、投資依存の成長路線から脱却し、市場の機能に依拠した成長に転換させるために「改革の全面深化」が求められている。これは2013年11月の党18期三中全会で確認されている事実だ。そうした中国にとって、またすでに国際経済に深く組み込まれている中国にとって、周辺諸国との緊張はけっして望ましいことではない。

 鄧小平が1980年代に「改革開放」政策を打ち出したとき、経済建設には「平和な国際環境」が必要条件だとして「独立自主の平和外交」を打ち出し、周辺諸国との良好な関係構築に努めたことを想起すれば、現在の中国がやっていることはその真逆であると言わざるをえない。

 なぜそうなってしまったのか。

経済建設の優先から「富国と強軍の統一」へ

 鄧小平は「文化大革命」で疲弊しきってしまった中国経済を再建するために「自力更生」路線を捨て、計画経済を市場経済の方向に誘導するとともに、外資を中国へ招き入れ、国際経済の中で中国の経済発展を目指した。以来30年以上が経過し、中国は米国に次ぐ世界第2位の経済大国の座を手に入れるまでに成長した。