ウクライナ問題に決着つけるエネルギー価格

あまりに脆いバランスを不用意に壊した米国の責任は重大

2014.05.23(金) W.C.
    http://goo.gl/SCO3Lm
  • 著者プロフィール&コラム概要

 価格の基礎となる450ドルは、2008年1~9月の原油価格(この間で欧州ブレントの平均価格は$111.4/バレル)から割り出したものだった。2008年のナフトガスの買い価格である179.5ドルから見ればかなりの値上がりにはなるが、同年で欧州大陸部でのガスの輸入価格平均は470ドルを上回る水準であったから、450ドルは当時としては決して法外な数値ではなかった。

 そして、石油製品連動という1つの客観指標に従う価格算定式が、ロシアとウクライナのガス売買で初めて適用された点に大きな意味がある。

 その後の2010年4月に、いわゆる「ハリコフ合意」が両国間で成立する。これは、クリミアの黒海艦隊駐留期限を2017年から25年延長することへの引き換えに、上記の価格算定式で割り出される価格に対してガスプロムが、333ドル以上なら100ドルを差し引き、333ドル以下なら30%を割り引く、というものだった。

ウクライナのガス代金未払い額は35億ドルにも

 実際には2013年12月まで、算定式に基づく価格から100ドルを差し引いた数値がガスプロムの請求書に記載されてきた。そして、その12月に、ロシアは当時のヤヌーコヴィッチ政権への援助として2014年第1四半期の価格を268.5ドルへ引き下げた(12月時点での価格・406ドル(算定式による元の価格は506ドル)から見れば約3分の1の値引きになるが、なぜこの水準が選ばれたのかの根拠は不明)。

 しかし、2014年2月に「マイダン革命」が起こり、援助の対象となるヤヌーコヴィッチ政権が消えてしまったために、ガスプロムは上記の2013年12月の値引きを2014年4月からは適用せず、として価格を385.5ドル(その時点での算定式による価格マイナス100ドル)へ引き上げ(ロシアによれば元に戻しただけ)、4月2日にプーチン大統領がハリコフ合意書破棄の批准書に署名すると、翌3日には2010年からの100ドルの値引きも自動的に廃止になったとして、価格を485.5ドルとした。

 こうしてガスの単価が変わる傍らで、すでに2013年9月からウクライナの代金支払いが一部滞り始め、2014年の4月分までの未払い累積は34.92億ドルへと膨らんでしまった。それだけではない。ガスプロムの計算によれば、2013年だけでも契約に規定される Take or pay 条項に従ってウクライナが支払わねばならない(そして支払われていない)罰金総額は約114億ドル、それ以前からの分も加えれば185億ドルにも達する。

 資金に事欠くウクライナに対して、IMF理事会は4月30日に2年間で170億ドルのスタンドバイ融資を承認し、その一部の35億ドルがすでに供与された。そしてIMFはその中から3月までのガス代金未払い分を支払って、この問題に片をつけろ(つまり4月以降の未払いはあり得ない、Take or pay 問題は当事者間で何とか解決する、との前提)と指示した。

 だが、カネというものは受け取ってしまえばこちらのものである。ウクライナのアルセニ・ヤツェニュク暫定首相は、ロシアが第1四半期の価格・268.5ドルを一気に485ドルへ引き上げたことを認めず、価格を268.5ドルへ戻さない限り、未払い分も含めて支払いは行わないと主張し始める。そして、この価格と Take or pay 条項が不当であるとして、契約に従ったストックホルム仲裁裁判所への提訴に動きだす。

 これに対してロシアは、5月中に未払いの一部でも支払われないならば、6月からウクライナに向けたガスの供給を停止する、とウクライナにも欧州各国にも正式に通知する。

 ヤツェニュク暫定首相の主張の根拠は、契約に「契約当事者のどちらかが、エネルギー市場の状況の変化でこの契約が決める販売価格が市場水準を反映していないと判断した場合には、価格見直しの交渉を申し出ることができる」と規定され、これに基づいてナフトガスが過去に何度も見直しを要求したのにもかかわらず、ガスプロムがこれに応じなかった、という点にある。

 契約の条文には、不払いという買い手による対抗措置を認めているくだりはない。従って、法的にウクライナ側の主張が認められる可能性は、ほかの場合なら薄いと考えるのが普通だろう。だが、ヤツェニュク暫定首相を強気にさせている背景には、暫定政権への欧米の後押しとともに、欧州のガス市場で起こっている取引自由化への動きがある。

 その動きとは、従来のガスの長期取引契約が依存してきた、石油(原油、あるいは石油製品)価格へのガス価格連動方式や Take or pay 条項の廃止であり、短期取引契約と取引所(ハブ)取引価格連動方式の推進である。

 実際に、欧州の仲裁裁判では、既契約に書かれた石油連動価格の水準や Take or pay 条項が部分的にでも否定されるという、ガスの売り手にとっては不利な審判例が最近出されている。

5
スマートエネルギー情報局TOPに戻る
PR
PR
PR
バックナンバー一覧 »

POWERED BY

  • ソーシャルメディアの公式アカウントOPEN!
    TwitterFacebookページでも最新記事の情報などを配信していきます。「フォロー」・「いいね」をよろしくお願いします!
Twitter
RSS

 

大手商社でロシアを長年担当する。

ロシア

ロシアは日本の隣国にもかかわらず最も遠い国の1つでもあった。しかし両国間の経済関係が密接になる中で、ロシアを正しく知ることは不可避である。このコラムでは日本を代表するロシアの専門家が様々な角度からロシアと周辺国を鋭く斬る。

>>最新記事一覧へ