中国海洋石油総公司(CNOOC)が設置した大型掘削設備「海洋石油(HD) 981」の周りで続く、中国海警局とベトナム海洋警察の衝突には、終わりが見えない。

 5月10日、11日にミャンマーで開催されたASEAN首脳会議でも、ズン・ベトナム首相は「ベトナムは極力自制し、あらゆる善意を示し、すべての対話チャネル、関係を用いて抗議し、プラットフォームや武装船、軍艦の即時撤退を求めているが、現在に至るまで中国はベトナムの正当な要求に応じないばかりか、ますます危険で深刻な違反行為を加速させている」と切々と訴えている。

 このままでは、CNOOCが示した試掘の期限である8月15日までは、現在の中越危機が継続することになるだろう。

 こうした衝突が続いている間にも、中国は自らが実効支配する南沙諸島のジョンソン南礁に何らかの構築物を造成するために、今年初頭から大量の土砂などを運び込んでいることまでが、フィリピン政府によって公表された。よりによって、このジョンソン南礁は、1988年にベトナムと中国が小規模な戦闘を行い、中国がベトナムから支配権を奪った場所なのである。

 ズン・ベトナム首相が急遽、フィリピン訪問を決めたのも当然であろう。

東シナ海における「防空識別圏」設定に匹敵

 今回の南シナ海における事態を、2013年11月の中国による東シナ海における防空識別圏の設定に例える国際的な論調もすでに見られている。つまり、国際法に合致しない形で、自らの意思を力で他国に押しつけることに対する、中国への強い批判である。

 つい2カ月ほど前に、ハノイでベトナム人有識者と筆者の間で、南シナ海でも防空識別圏はいつでも設定され得るので、厳重に警戒が必要であるという話題で意見が一致したばかりである。