「オバマ旋風」がアジアから去った――。が、勢いだけで、米国にとって具体的な果実はなかった。それどころか、同政権にとって、外交の軸足を中東からアジア太平洋に変更するアジア回帰(Rebalancing Asia)の矛盾とジレンマを露呈した旅だった。

米国が中国からマレーシアを“奪回”したい理由

 その旅の狙いは、アジア太平洋地域での米国の軍事、政治、経済上の優位性を強化することだったが、緊張が続くウクライナ情勢、混乱のシリア内戦、米国の仲介で昨年約3年ぶりに再開したイスラエルとパレスチナ間の事実上の中東和平協議決裂の中、同政権の外交政策が批判を浴びる時期と重なった。

 米国が中東や欧州から手を引いている間に、イランの核やシリアの危機が高まり、米国の軍事外交戦略のネックとなっている。言い換えれば、西側の有事がアジア回帰の戦略化を遅らせている。結果、今回のいずれのアジア訪問国の記者会見でも、大きな関心を呼んだのは、皮肉にも中東や欧州地域の危機問題だった。

 一方、オバマ大統領は日本で「尖閣諸島は日米安保の適用範囲内」と日本寄りのメッセージを発すると同時に、「中国は重要なパートナー」と、傍らに立つ安倍晋三首相を見つめながら日米両国の記者の前でそう断言した。

 オバマ政権の真の狙いは、中国を牽制するのではなく、アジア太平洋地域での「民主主義」「人権」「法の支配」が守られる民主的価値形成を指導し、中国を孤立させず、米国が主導する秩序形成にうまく組み込ませていくことだ。

 無論、アジア諸国も中国を孤立させることは賢明でないと考える。むしろ、米中間の狭間の“力学の天秤”の役割を自ら果たすことが、自国にとってもアジア域内の安定にとっても有益で、たとえ米国のアジア回帰に不信や矛盾があっても、どちらかに偏ることでの「両刃の剣」の脅威にさらされたくないというのが本音だ。

 そんな中、オバマ政権が今回の歴訪で重要と位置づけていたのが、唯一同盟国でないが将来的な「戦略的パートナー」と位置づけるマレーシア。

 今回の米国の大統領訪問は1966年のジョンソン大統領以来、約半世紀ぶり。当時、冷戦下の米国がベトナム戦争中のアジアでの共産党拡散の排除を目論み、マレーシアをその影響力から引き離そうと画策した背景がある。

 また、米国が最も注目するのは、マレーシアの1人当たりGDPは約1万1400ドルと(IMF2014年4月統計)、ASEAN域内でシンガポールに次ぎ豊かな国で、イスラム圏で経済的に最も成功した「穏健派イスラム国」であるということ。

 他のASEAN諸国と同様に南シナ海の領有権争いはあるが、その中でも中国に対しては慎重派で知られる。また、マレーシアは世界的に見ても華僑が多く、ASEAN諸国の中では1974年に中国と最初に国交を締結した国でもある。