中国は、日本に対して法的にも歴史的にも根拠のない尖閣諸島に対する領有権を主張し、近海に公船を出すなど強硬策をとり続けている。他方でロシアは、クリミアを軍事力の威圧を背景に事実上併合し、東ウクライナでは親露派が台頭し混乱が深まっている。

 中露両国は大陸国である。なぜ両国は強気なのか、その背景には地政学的要因がある。

1 軍事技術的要因: ミサイルの飛躍的な発達

中国海軍、新型「ステルス・フリゲート」を取得 国営通信

北京でパレードする中国海軍の兵士〔AFPBB News

 海洋国の覇権の優位性が近年失われつつある最大の要因は、軍事技術特にミサイルとそれらを指揮統制する能力(指揮・通信・統制・コンピューター・情報・警戒監視・偵察能力: C4ISR)の飛躍的な発達である。

 近代の海洋法秩序における領海概念は、長らく沿岸から3海里内とされてきたが、そのもともとの起こりは、18世紀末にイタリアのアズーニが、当時の砲の射程を基礎として3海里説を唱え、この説が国際社会において一般的に採用されるようになったことに由来している。

 この領海3海里説が一般に採用されるようになった背景には、沿岸国の陸上に配備された火砲の威力圏の及ぶ範囲内が、領海の実効支配を可能にするものと、広くみなされたことがあると見られる。

 しかし、21世紀に入り飛躍的にミサイルの射程と精度、さらにミサイルの攻撃目標を探知しそれに各種のミサイルを効果的に誘導する指揮統制能力が発達したことにより、海上の海軍艦艇に対して直接威力を及ぼし得る範囲は、すでに数千海里に達している。

 しかも、地上配備のミサイルの多くが、地下基地に配備され、車両などに積載されて移動が可能になっている。そのため、地上配備のミサイルは発見も、先制攻撃による制圧も、攻撃に対する報復も困難な、いわゆる「非脆弱」な目標になっている。

 他方の特に水上の艦艇は空母すら、防空能力を超える多数のミサイルの集中による飽和攻撃を回避することは困難となり、「脆弱」になっている。

 例えば、中国の射程約1450キロメートルの「DF-21D」は、通常弾頭だが空母を直接攻撃する能力を持っており、射程内に米空母が接近するのを効果的に阻止・遅延させることができると米国はみている。

 米国国防省は『中華人民共和国における軍事力と安全保障の発展2013』でも、「中国のA2/AD戦略は、西太平洋を含む、その周辺に対する接近を制限しあるいは統制することに焦点が合わされているように見られる。中国の現在と将来の戦力構造の改善により、人民解放軍は敵対国の水上艦艇と、中国沿岸から1千海里までの範囲での交戦が可能になるであろう」と評価している。