前回の「イノベーションで世界に後れる日本の人材不足」ではイノベーティブ人材の育成について考察しましたが、本稿では国内における事例を2つほどご紹介します。

東京大学i.school

東京大学・安田講堂(ウィキペディアより)

 最初の事例は東京大学i.school。この教育プログラムは東大の「知の構造化センター」のプロジェクトとして2009年9月からスタートし、人間中心のイノベーションを生み出す力を養うことを目的としています。

 毎回約30人の学生に対し、1年に6回程度のワークショップを開催する中で、各チームに1~2名の社会人にも参加してもらいます。課題に対して創造的に取り組む上で、どんなメンバーを集め、どのような調査をし、どう議論すればイノベーティブなアイデアにつながるかを設計できる人材の養成を目指しています。

 初年度の2009年は、アメリカからデザインコンサルティングファームIDEOの社員が参加し、「働くお母さんと子供が家庭でどんなコミュニケーションを図れるようになるか」というテーマで1週間のワークショップを開くなど、これまでに合計25回以上のワークショップを開催しています。

 さらには、スタンフォード大学のd.schoolや、イギリスのRCA(The Royal College of Art)、フィンランドのAalto大学前回の記事でご紹介)、韓国のKAIST(カイスト=韓国科学技術院)といった、イノベーションワークショップに力を入れている機関ともコラボレーションし、それらの優れたエッセンスを学び、プログラムの質を高めています。

 例えば、インドのハイデラバードでIIT(インド工科大学)の学生と行ったワークショップでは、インドの未来はどのように変化していくのか、その変化の兆候を見つけ出し、多角的直観的に収集した情報からシナリオアイデアにつなげます。そこから事業領域と合わせてプロダクトアイデアにする。

 もう一方では、インドではどのような外資企業によるビジネス事例があり、どんなビジネス戦略があるのかなどを抽象化します。その両方を合わせてインドで日本企業がビジネスを展開するためのビジネス戦略のアイデアを発想。評価基準を導入し、中間プレゼンを経て最終プレゼンに至ります。

 どのワークショップでも共通しているのは、グループワークを通じて他者と質問を交わしたり、他人のアイデアを聞くというインタラクティブなメカニズムから新たな発想が生まれることを狙っていることです。