最近、麻薬ではなく、現金を嗅ぎ分ける警察犬が活躍しているらしい。スイスとオーストリアとドイツの国境がぶつかるところで、ドイツの税関の役人がこの犬を動員している。スイスやオーストリアから、多額の現ナマを車でドイツに持ち込もうとする人が、急増しているからだ(その理由は後述)。

銀行の秘密主義にメス、脱税目的の預金者は戦々恐々

 EUでは、ここ数年脱税の取り締まりが厳しくなった。ドイツ人がスイスに預金している金額の推定は1750億ユーロ(21兆円)で、そのうち少なくとも1000億ユーロ(12兆円)が非課税、つまり脱税のお金だと言われている。これを取り締まり、税金を取り戻すべきだというのは、当然の話だ。

 そして、もう一つのきっかけは2008年のリーマン・ショック。多くの銀行が危うい商売をしていて、しかも、EUの多くの国の経済が借金で崩壊しそうになっていることがはっきりと明るみに出た。そのせいで、世界中が不況になり、後始末が未だに終わっていないことは、すでに誰もが肝に銘じている。

 脱税も、顧客の情報を一切明かさず、秘密口座を作って、脱税や資金洗浄の手伝いに励む銀行があるからできることだ。銀行に倫理観が欠けているなら、法律を作って、規律を正さなければいけない。悪い銀行をどうにかして取り締まろうということになったのである。

 具体的には、スイスやルクセンブルクが売り物にしていた秘密主義を徐々に取り外すことだ。今までは、これらの国々にお金を預けていれば、預金者の情報は一切秘密に保たれ、母国の税務署を煙にまけたが、まずそこにメスを入れるため、EUの財務大臣が集まっては熾烈な交渉を続けていた。

 その結果、14年3月、ルクセンブルクとオーストリアが、長い抵抗の末、ようやくEUの銀行改革案に合意した。これによって、将来は、ルクセンブルクもオーストリアも、他国の税務署から預金者についての問い合わせがあった場合、返答をしなければいけなくなる。脱税目的の預金者にとっては、抜き差しならない状況である。

 しかも、今年の夏からは、欧州中央銀行が、ユーロ圏の6000の銀行を監督することもすでに決まっている。

 もちろん、スイスはEUにも加わっていないし、ユーロも使っていない。しかし、だからと言って、今後も好きなことができるかというと、おそらく、もうそういうわけにはいかないだろう。ようやく28カ国が一丸となったEUは、これから、スイス以下、秘密主義を取っているヨーロッパの5カ国に、預金者の情報を必要に応じて開示するよう求めていく方針だ。

 EUにもユーロ圏にも加わらず、預金者の情報を隠蔽してお金を稼いでいる、スイス以外の残りの4カ国とは、リヒテンシュタイン、アンドラ、モナコ、そしてサンマリノである。