本記事はLongine(ロンジン)発行の2014年2月16日付アナリストレポートを転載したものです。
執筆 笹島 勝人
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投資家に伝えたい3つのポイント

●決算発表などのようなイベントの影響は企業や業界だけでなく、市場心理への影響を考える必要があります。
●銀行株は業績や株価などに勢いが薄れると、収益力改善が主張される傾向があります。しかし、金融業の収益力は自国の一般企業が左右するので、自助努力には限界があります。
●収益力改善に焦点が当たるほど、構造問題が浮き彫りにされ、銀行株は手詰まり感が強くなります。

Q3が示す利益拡大の息切れ感

イベントは企業や業界だけでなく、人の捉え方つまり市場心理への影響を考える必要が時々あります。たとえば、直近の銀行イベントは、メガバンクのQ3(2013年10-12月期)決算です。9か月累計の当期純利益は大幅増益ですが、四半期ごとでは水準が低下しつつあります。株式損益や不良債権処理額が利益を押し上げる効果にも、陰りがみえてきました。一般企業の営業利益に当たる業務純益(業務粗利益-経費)も同様です。アベノミクス効果で、投資信託の販売や証券子会社などの手数料収入は絶好調といえますが、国債売買益など市場部門の減少をカパーし切れていません。このままでは、2015年3月期は減益となる可能性があります。

決まって出てくる日本の銀行の収益力強化論

銀行の株価も一進一退なので、こうなるとメディアや識者などから出てきがちな、典型的な主張があります。日本の銀行は収益力を改善して競争力を高めるべき、という指摘です。確かにアメリカの銀行をみると、2013年12月通期の当期純利益はトップのウェルズ・ファーゴで、1$=102円で換算して約2兆2,300億円です。これに対し、資産規模が約1.7倍ある三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の2014年3月期会社予想の当期純利益は、9,100億円にとどまります。確かに、収益力にはかなり大きな差があります。

新しいようで古くからある課題

課題には、自助努力で解決できるものと、そうでないものがあります。日本の銀行の収益力の強化は、後者つまり自助努力で解決は難しいと考えています。海外と比べて低い収益力は、今に始まったことではありません。現在は超低金利に加え異次元緩和により、ただでさえ低い貸出利ザヤがさらに縮小し、本業の貸出の利益を圧迫しているのは事実です。しかし、利ザヤが海外の銀行に比べて圧倒的に低く、日本の銀行の収益力の低さの象徴と原因となっている状況は、ずっと昔から変わっていません。「べき論」も大事ですが、なぜ収益力を改善できないか、新しいようで古くからある構造的な背景を、知っておく必要があります。