世界の航空機事故史上例を見ない、謎のベールに包まれたマレーシア航空機の失踪事件。先月末、ナジブ首相が「深い悲しみに包まれている」と切り出したあと、「同機はインド洋南部で飛行を終えた」と声明文を発表、同機の墜落を示唆した上、「生存者もいない」と事実上断定した。
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英衛星通信会社インマルサットの衛星情報に基づき、英国航空事故調査局(AAIB)が航跡を分析。その結果、失踪機の最終地点がオーストラリアの西部、パース西方沖のインド洋であると結論づけた。
しかし、それまでにこの周辺では豪当局などが複数の漂流物を確認しているが、いまだに物証はない。加えて、「なぜ、北へ向かうはずの同機が全く反対の南のインド洋へ向かったか」などの疑問や謎も解決されず、墜落の直接の原因も明らかになっていない。
この物証がないままの「墜落断定」に、“スパイ小説”さながらの理論も噴出し、実際、取材をしている世界のメディアは当惑や驚きを隠せない。
その後、豪州西部パース南西沖2500キロの海域や、同捜索地点から北に約1100キロ移動した地域の捜索で、豪州の捜索機が青色や白色の漂流物を複数発見(マレーシア航空機の機体の色は「白」「青」「赤」)。日本の情報収集衛星も残骸と見られる物体を確認するなど、日本、米国、中国など6カ国による軍用機、民間機の国際的な捜索支援活動が続けられている。
しかし、漂流物発見の報告はことごとく“フライング”で、鳥の集団だったり(衛星写真等で見える122個の漂流物は、渡り鳥が群れをなして海面で休憩していたにすぎなかった)、単なる魚具だったり。とりわけ、捜索範囲が広範囲(ほぼ米国全土に相当)に及ぶだけでなく、視界が極めて悪く、南極に近く冬の季節を迎えて一部海面に氷が張りつめており、捜査作業はこれまで何度も中断。
中でも、あと1週間を切った電池期限が迫っている中、事故究明の鍵を握るブラックボックスの回収が急務だ。世界で唯一、4000メートル級の深海で(インド洋は世界でも屈指の深海)ブラックボックスの信号が探知可能な米国のTPL-25曳航式信号探知システムが現地に到着。米国は同時に無人潜水艇もインド洋に送った。
同探査機は、大西洋に墜落したエールフランス機(2009年)の残骸も回収した実績があるが、同機器が音波を探知できる範囲は半径2キロほど。しかも、機体の位置を確定できないと探知できないため、エールフランス機の捜索が行方不明から1カ月で捜索が打ち切られたことも背景に、いったん捜索が中止されることも予測される。
マレーシア政府は期限を設けず捜索を続ける方針だが、ナジブ首相は2日、オーストラリアに向かい、アボット首相と会談。捜索の中止等も含め、今後の対応を協議するものと見られる。
一方、153人という乗客の過半数を占める中国では外務省の洪磊報道官が、「(墜落の)根拠となった証拠と情報を提示すべし」とマレーシア政府を批判。外務省のナンバーツーである次官を特使としてマレーシアに派遣するなど、2国間の軋轢は深まるばかりだ。