脱税や横領で25億円の罰金刑が出ても、1カ月半ばかり簡単な仕事をすればチャラになる――。韓国でこんな判決が出て執行された。日当は何と5億ウォン(約5000万円、1円=10ウォン)。こんな常識外れの判決がどうして出たのか。50日間で完済するはずだったが、世論の批判が沸騰し、刑の執行が急遽停止になるどたばた劇になった。いったい、何が起きたのか。
2014年3月22日夕方、仁川国際空港に1人の男が降り立つと、すぐに韓国南西部の光州にある拘置所に移送された。
光州に本拠を置く大洲(テジュ)グループの創業オーナーである許宰皓(ホ・ジェホ)氏だ。
罰金払わず逃亡した挙げ句、拘置所送りになった財界人
許宰皓氏は脱税や横領で起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けたが、ニュージーランドに逃亡していたのだ。執行猶予付きの判決だったため、送られたのは刑務所ではない。拘置所に隣接する「労役場」というあまり聞きなれない施設だった。
罰金を「労役提供」で払うため、作業をするためにここに送られたのだ。
事の顛末はこうだ。
大洲グループは、建設業を主力とした光州地域を代表する企業グループだ。1997年のIMF危機の際に、暴落した優良不動産物件を格安で買い取り、不動産価格急騰後に光州だけでなく首都圏などでアパート建設に乗り出して大儲けした。余勢を駆ってレジャー、損害保険、造船事業などに次々と進出、さらに地域有力新聞社まで傘下に収めた。地方財閥に成り上がったのだ。
許宰皓会長(現在は会長を退任)は、光州を代表する経済人となった。しかし、造船・不動産不況で経営が急速に悪化した。この過程で脱税や横領などを起こし、2007年に起訴された。2010年1月に控訴審で懲役2年6カ月、執行猶予4年、罰金254億ウォンの判決が出た。
一見すると普通の経済犯罪だが、これで一件落着とはならなかった。
この判決には「罰金を支払わない場合は50日間の労役を課す」という内容も含まれていた。これは刑法で定めた「換刑留置」という制度に基づいたもので、財産がないなどの理由で罰金を払えないときは、「労役場」で働くことになる。
そもそもこの制度は、罰金を支払う能力がない庶民の犯罪を想定したものだった。だから労役の日当換算も大体「日当5万ウォン(5000円)」程度という判決が多かった。
ところが、許宰皓氏に課された罰金は254億ウォンと桁違いに大きい。50日間の労役で完済するということで、「日当5億ウォン」という計算になってしまう。日当は、ほかの判決の1万倍にも達するのだ。