3月半ばになると、連日観光客で賑わっていた梅まつりも終わり、厳しい寒さのなか咲いていた熱海桜も散り始める。熱海桜の花びらがはらはらと舞う頃になると、ウグイスの頼りない鳴き声が聞こえてくる。

梅園奥にある澤田政廣記念美術館庭の熱海桜。寒桜なので2月中に満開を迎え、3月半ばには散り始める(写真提供:筆者、以下同)

 (そうそう、熱海の春はこんな順番で来るんだった!)

 那須から引っ越してきたばかりの頃、熱海の春の訪れの早さに面食らっていたのがずいぶん前のことのように感じる。

 熱海桜が葉桜になる頃にはソメイヨシノが咲き始める。

 春らしくなったと思いきや、冬に逆戻りの冷たい1日となったり、三寒四温の陽気は東京と変わらないものの、やはり熱海の春の訪れは一足早く、なんだか得しているような気分だ。

熱海と美容院の切っても切れない縁

 ぽかぽか陽気に誘われて熱海の街を歩いていると、小さな美容院があちらこちらにあることに気づく。

 今は治療院となっているスナメリ食堂のお隣も、以前は数十年にわたって営業していた美容院だったそう。その数軒先にも昔ながらの小さな美容院があり、こちらは今なお現役だ。

スナメリ食堂近くの美容院。今でも時折芸者さんが髪を結いに来るそう

 かつては芸者さんやホステスさんの髪を整えるために熱海市内にはたくさんの美容院が軒を連ね、とにかく賑やかで、華やかだったという。

 「この辺りもねぇ、夕方になると芸者さんが美容院にやって来ては髪を結って、きれいな着物姿でねぇ、お座敷に向かう様子をしょっちゅう見かけたんだよ」

 お客さんが目を細める。

 当時のままの店構えで営業を続けている美容院も多く、夕暮れどきになると、ふらりと芸者さんが出てきそうな趣だ。店先を眺めているだけでもタイムスリップできそうだ。

 昔ながらの美容院が数十年にわたり変わらずに営業を続けている一方、長く東京で美容師をされていた方が熱海駅近くで美容院をオープン、評判になっている。