東京都世田谷区用賀――。周りに田畑など全く見当たらない閑静な住宅街の一角で、農業の未来を考える「熱い」ラジオ番組が制作されている。コミュニティーラジオ局エフエム世田谷(83.4MHZ)の「農といえるニッポン!」(毎週土曜午後6時)は、農業とは全く無縁だった元OLの植村春香さん(NPO法人農業情報総合研究所理事長)が企画から番組進行のパーソナリティーまで独りでこなしながら、6年以上も続けている番組だ。
植村さんの番組を支えているのが、農学を勉強しながら「明日の日本」を担う大学生たち。地元世田谷の東京農業大学を中心に、出演学生は400人を突破。番組収録の現場を取材すると、「日本の農業は決して捨てたものじゃない」という思いを強くした。(写真も筆者撮影)
犬猫病院で命の「重さ」を学び、動物看護師を目指す
2010年7月15日、エフエム世田谷のスタジオに集合したのは、東京農業大学短期大学部2年生の男女4人。各地で10日間インターン研修した体験談を、「農といえるニッポン!」で「農業戦隊アグレンジャー」として語るのだ。
もちろん、ラジオ番組への出演は全員初体験。小倉加帆里さんは「どうしよう、緊張してきちゃいました・・・」と膝を震わせている。でも本番になると、ゆっくり大きな声で堂々と喋り始めた。自宅を出る時、「しっかり頑張ってね」と優しく声を掛けてくれたという、母親のアドバイスの賜物だろう。
畜産を学んでいる小倉さんが研修先に選んだのは、横浜市内の犬猫病院。毎朝4時半に起床。院内の衛生を保つため、朝から晩まで清掃・消毒に励んだ。診察台の上で暴れ回る「患者さん」を押さえ付ける「保定」も大事な仕事。イヌに引っ掻かれてしまい、傷跡が残ってしまったが・・・
実習中、重病のイヌが助からず、小倉さんは口を利けないぐらい落ち込んだ。その一方で出産に立ち合うと、何とも言えない幸福感に包まれる。動物の命の「重さ」に直面しながら、素早い判断力や注意深い観察力の大切さを学び、「卒業後は動物看護師になろう」と決意した。
東京出身で農業とは無縁の家庭で育まれた小倉さんだが、短大入学後に「食」に対する意識が大きく変化した。田植えや稲刈りの実習を通じ、「苦労して収穫した1本の稲穂から、ちょっとしかコメが取れない。ダイエットを理由にしてご飯を残していてはいけない」と思い改めたという。