ここ数年の間、イラクやアフガニスタンでの大規模な軍事作戦の終わりを迎え、アメリカはアジア太平洋への戦略的な「回帰」を唱えている。日本にも重要な意味合いを持つ大きなピボットである。

 その動きに合わせる形で、2500人の海兵隊をオーストラリアのダーウィンに、そして4隻の沿岸域戦闘艦をシンガポールに送り、フィリピンでの米軍のローテーションを向上させた。また、外交面でも東アジアサミットに参加したり、経済的にも環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を促進したりしている。

 私は現在アメリカ空軍の戦争大学にて「アジアの世紀」という修士号の授業を担当しており、アジア太平洋の政治と経済をアメリカの戦略的な視点から分析している。授業は毎年アメリカ人の学生と留学生を交えたメンバーでゼミ形式で行われている。国際的な環境で様々な視点を用いることにより、複雑な問題を多角的に分析することができる。

 本稿ではその授業の内容も踏まえて、北東アジア、東南アジア、南アジアの順に地域を回り、アジアにおける日本の安全保障を検証してみたい。

中国の台頭著しい北東アジア

 日本の状況から始めるが、やはり世界が注目するのは日本を取り巻く領土問題から韓国や中国などの近隣諸国との外交関係、そして日米同盟の将来に関してである。

 複雑な国際関係の中、ここ数年日本の防衛戦略も変化を遂げているが、肝心の憲法改正や集団的自衛権などの進捗は停滞している。日本領への中国の度重なる侵入にも自衛隊が満足に対抗できず、領土防衛に必要な軍事抑止力が足りていない。

 昨年中国が一方的に設定した防空識別圏はよい例である。日本の反論にもかかわらず防空識別圏自体は既に既成事実化しており、日本の国益に直接反する行為を中国側に事実上許してしまった。物事を未然に防ぐよりも、一度起きてからそれに対応しようとする日本側の姿勢が鮮明になり、かつそれが効果をあげていない。

 一方で朝鮮半島も、冷戦中から緊迫した政情が続く。今月も出張で北朝鮮を見てきたが、やはりその緊張感は特別なものがある。

韓国側から見た北朝鮮(著者撮影、以下同)