「プーチンの運動会」などと揶揄されながらも、多くの話題を振りまきながらソチ冬季五輪は2月23日の閉会式をもって無事に終了した。そもそもこのオリンピック、5兆円という巨額の資金を投じて、短期間で一から競技施設を建設する、という無謀な計画であった。
実のところ、ウラジーミル・プーチン大統領という独裁者がいたからこそ、やれたようなイベントであった。今でも、国内国外を問わず、無駄な投資だったという意見は強い。
しかし、視点を変えてみた場合、今後のロシアを考えるうえで、意外に重要な意義を持つ歴史的な行事に数えられるのではないかと、個人的には考えている。その意義を以下に挙げてみる。
(1)ロシア、金(かね)の威力を再認識。
(2)テロは防げる、という自信。
(3)ロシアの地方都市の復権。
(4)世界に広がるロシア人がロシアを変える。
(5)ロシアメーカーが初めてロシアチーム全員で使用される製品を提供した。
(6)日本への関心を再確認。
(1) ロシア、金(かね)の威力を再認識
ウラジオストクでのアジア太平洋経済協力(APEC、2012年開催)では、ホテル、歌劇場など主要建設プロジェクトの多くが間に合わなかった。そのうえ、巨額の資金を投入した吊り橋2本も、会場となったルースキー島に極東連邦大学以外の施設がオープンしないこともあって、有効利用されているとも言い難い。
このようにいろいろと問題はあるが、それでもウラジオのインフラは道路を中心にずいぶん改善されて、そのインフラに誘発された企業や役所がウラジオに移転するケースを耳にする。
2012年にできたばかりの極東開発省も、ハバからウラジオに移動を決めた役所の1つである。この省は、プーチン大統領直轄の極東開発事業を促進すべく作られた役所であり、この移転でウラジオはまさに極東開発の中心地になることになる。このあたりの話はまた稿を改めて書いてみたい。
さて、このAPECがらみの投資額が1兆8000億円と言われているが、ソチ冬季五輪はその3倍近い5兆円である。新規に鉄道も敷設され、道路も建設された。この鉄道と道路が海と山を結ぶ。
まさに海側と山側をそれぞれの町と考えると、ソチには新しい2つの町が5兆円で建設されたのである。そして、この奇想天外なプロジェクトが実現したことに私は驚いている。
昨年10月、ソチとは400キロほどの距離になるが、南ロシアの重要都市、ロストフナドヌーに出張した。そこで、住居のガス、電気、水道、日本語のライフラインにあたる工事をまとめて担当する企業と話をしたが、まさに彼らはソチ選手村での仕事を終えて、ロストフに戻ってきたところであった。
「2月の五輪に選手村は間に合うのか」というこちらの質問に、もうやる仕事がないから戻ってきた。「我々の担当する部分は全部終わったということだ」と明確に状況を語ってくれた。
緊急工事ということで割増金ももらえたそうである。今回の五輪がらみで仕事を受注した企業は、ロストフやクラスノダールを中心に南ロシアの多くの都市にわたっている。たぶん、これはロシアでは初めてのことではないだろうか。
建設計画には大きな遅延が発生したが、それも割増金を支払うことで、作業員を増やし、そして、なんとか完成した。