世界の先進的な医療を牽引する、米国の国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)をモデルにした日本版NIHを創設し、日本の医療分野の競争力を強化しようという動きが政府内で活発化している。
その中核として独立行政法人日本医療研究開発機構(仮称)を2015年4月に創設し、1382億円の経費を一元化して扱うという方針が昨(2013)年12月に報道された。健康・医療戦略推進法案など2法案が近く閣議決定され、今国会に提出されるという。
この1月には英国のネイチャー誌に日本の若手研究者が新たな万能細胞を作成したという論文を発表し、日本の基礎医学研究のレベルの高さが世界的なニュースとなった(nature)。このような明るい話題の反面で、研究関連の不祥事の報道が相次いでいる。
その後の高血圧治療薬バルサルタン事件
筆頭は、本連載でも過去に取り上げたノバルティスファーマ(以下、ノバルティス)の高血圧治療薬「バルサルタン(商品名ディオバン)」事件だ。2013年6月の執筆当時は、国際医学誌に発表された一連の臨床研究結果が捏造されたという疑惑に過ぎなかった。
その後、大学などの調査により、実際にデータ操作があったことが次々と判明した。京都府立医科大学(Oxford Journals)に続き東京慈恵会医科大学(THE LANCET[1]、THE LANCET[2])と滋賀医科大学の論文(毎日新聞)も、医学誌から撤回される事態に至っている。
千葉大学(週刊日本医事新報)や名古屋大学(AHA Journals)の論文についても中間報告まで調査が進んでいるようだ。知人の記者も、「話題にならず闇に葬られてきた過去の論文捏造事件を考えると、ここまで解明できた成果は大きい」との感想を漏らしているが、真相解明までの道程はまだ半ばに過ぎない。
ノバルティス社に対する刑事告発
厚生労働省による、高血圧治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会による検討も、昨年末まで4回にわたって続けられたが、誰がどのように不正なデータ操作を行ったのか、結局特定には至らなかった。
このため、1月9日には同省がノバルティスを東京地検に刑事告発するという、前代未聞の事態に陥っている(朝日新聞、東洋経済オンライン、郷原信郎が斬る)。
信頼回復には海外へも対応策の発信を
これらの経過は海外でも大きく報道され関心を集めており、国際的な影響も大きいようだ(Science Magazine、The Wall Street Journal、The Wall Street Journal Japan Realtime)。既に日本からの臨床医学論文が、海外医学誌に受理されにくくなる影響も出始めたと噂されている。