リコール整備作業はV6で6~7時間、V8だと22時間以上

 しかし、今日のクルマで製造後にエンジンの「大手術」をするのは、そう簡単なことではない。

 特に今回のエンジンはV型の気筒配列、つまりエンジンルームの中でシリンダーヘッドが左右に開いて両側の内壁に近い位置にある。それを分解して、バルブを動かすカムが一体に並んだカムシャフトが2本、その直下でバルブにカムの動きを伝えるスイングアームがバルブと同じ数あり、これらを全て取り外さないとバルブとバルブスプリングには手が届かない。

V型8気筒の2UR-FSE型の左側シリンダー列後部を断面で見えるようにカットしたモデル。バルブ駆動機構の部品の配置が理解できるはず。バルブスプリングのすぐ上、スイングアームの両側に骨格部品の分割線が見えているが、ここから上の骨格とカムシャフト、その支持軸受、スイングアームなどを全て取り外さないと、バルブスプリングの交換はできない。(写真提供:トヨタ自動車)
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 しかも斜めになった面に並ぶ片側3気筒12本、あるいは4気筒16本のバルブスプリングを交換。再び全てを組み直し、カムシャフトの回転位置を正確に出し直して軽く回してみる。そこでバルブとカムの遊びをなくす機構、カムシャフトの位相(角度)を変化させる機構に、本来は満たされているオイルが再び行き渡って気泡が入っていない状態にする。もちろん各部のシール(液洩れ止め)も確実に。

 こうした全てのプロセスを間違えることなく、しかも質の高い作業をしないと、このリコール整備作業が別の重大トラブルを生んでしまう可能性も決して小さくはない。

 もともと今日のエンジン製造工場では、場所によっては空気中のゴミを除去したクリーンルームに近い環境も含めて、エンジンそのものを組み立てるのに最適化した設備で作っている。今回のリコール対応整備では、それをディーラーの現場で、つまり、簡単な整備作業か、あるいは大きな部品類はそっくり交換で(それも件数はごく限られる)対応している環境と作業者で作業を進めなければならない。

 V6エンジン搭載車では、シリンダーの外傾角度が30度で両側に余裕もあるので、エンジンを搭載したまま作業を実施。それでも1台あたり6~7時間かかると見積もられている。

 V8エンジンは本体そのものが大きく、しかもシリンダーの外傾角度が45度と斜めに広がるため、車載のままでは作業が難しい。エンジンを車体とトランスミッションから分離していったん上に持ち上げてから下ろし、単体状態にして作業をするので、全工程に22時間か、それ以上かかると想定されているという。

「4バルブ」を大量生産車に導入したトヨタ

 もともと今日の自動車は、そしてサービスの体制や設備、技術員のトレーニングなど全てが、こうした重整備作業がある頻度で必要になるとは考えられていない。それだけの設計品質、製造品質を持つところまで「進化」してきたはずなのだ。

 その進化の成果として、バルブ駆動機構は、その中核部品の1つであるバルブスプリングは、エンジンが回り続けるための重要な技術要素の1つとして、何よりも信頼性と耐久性を確保する努力が重ねられ、それが設計基準としても開発試験の方法論としても、既に確立されたものがあるはずだ。

 さらに言えば、素材メーカーも、そこからバネを作るメーカーも、それぞれに製品の中に起こり得る欠陥や弱点を検証し、作り続ける中でもその現物で確認する(いわゆる「抜き取り検査」などで)方法論を確立しているはずである。それでも100万個単位になれば、ごくわずか、問題を抱えた製品が世に出る可能性は、もちろんあるのだけれど。