日本語教師としてスウェーデンに来た時、最初の授業で「はじめまして! 私は○○です」の自己紹介を練習し、それに続く授業で、「これは私の家族です」という自分以外を紹介する会話を導入しようとした。

 私がこの時に教材として用意したダイアローグは、自身の家族をそのままモデルにしたもので、「これは私の父です。これは私の母です。これは私の弟です」という、いたってありふれた核家族を紹介するものだ。

 このシンプルな会話の練習が、実はとんでもなく困難を極めた。そもそも「兄弟は何人ですか」「家族は何人ですか」という一見何でもない問いかけに、すんなりと答えられる生徒があまりいないのだ。

スウェーデンの不思議な家族

 「兄弟は何人ですか?」

 「リアルブラザー(両親とも同じ兄弟)が2人、ハーフブラザーが1人、ハーフシスターが2人、血のつながっていない兄弟が・・・ええと・・・」

 「家族は何人ですか?」

  「両親は離婚し、自分は父親の家と母親のアパートを1週間おきに行き来している。父の家には父の妻と、その2人の子供がいるので、自分が行く時は家族は5人になる。母の家には母のボーイフレンドとその男の連れ子がいるので・・・」

 両親が離婚する時、子供の親権を2人で共有し、子供が1週間おきに父と母の元を行き来するのはこの国では普通だ。そのために親たちは、互いにあまり遠すぎない距離に居を構える。

 子供は1週間を一方の親の家で過ごした後、大抵は週末に大きなリュックを背負ってもう一方の親の家へ向かい、そこでまたもう1つの家族と1週間をともに過ごすことになる。家族形態が毎週「流動する」のだ。

 これは、親が離婚してもその子供の権利と幸せが最大限に守られるように配慮された、1つの家族形態のあり方だ。

 結婚せずに子供を持つパートナー関係も、すでに半数を超えた。子供の目線で言うと、「パパとママと一緒に住んでいるけど、2人の名字は別々」ということになる。郵便受けや表札に2つの姓が並んでいる家も多い。子供の名字はと言うと、父の名字を名乗る子、母の名字を名乗る子、2人の姓を名乗る子と、様々だ。