いよいよソチ・オリンピック開催まで3週間ばかりとなった。日本にとっては幻の1980年のモスクワ・オリンピック以来、ソ連崩壊後ではロシアでは初めてのオリンピック開催となる。地域大国としての復権を大いにアピールしたいホスト国の思惑とは裏腹に、年末にはロシア国内で大規模な連続テロ事件のニュースが飛び込んできた。

モスクワで聖火リレーがスタート、火が消えるハプニングも

聖火をともすロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News

 ソチはいわゆる北コーカサス(カフカス)と呼ばれる地方に位置し、古来多民族・多宗教で知られる地域である。

 正教会信者の多いロシアにおいては少数派のイスラム教徒が多数派の地域であり、貧困問題や若年層の高い失業率、指導層の腐敗問題などの火種も多いために、バルカン半島と並ぶ宗教・民族紛争の「火薬庫」とも呼ばれる。

 とりわけソ連崩壊後のチェチェン紛争は凄惨を極め、南コーカサス3国(アゼルバイジャン、アルメニア、グルジア)の民族紛争も未だ解決していない。

 2008年夏の北京オリンピック開催日前夜に突如火を噴いたグルジアとロシアの戦争は記憶にまだ生々しい。北コーカサス地域の治安状況もソ連崩壊以降、長年にわたって不安定な状態が続いている。

 このように、地政学的に非常にリスクの高い地域でなぜオリンピックが開かれるのか、世界最大の陸地面積を誇り、寒冷地にはそれこそ事欠かない広大なロシアの中、ソチでオリンピックが開かれる意味については、一度考えてみてもよいだろう。

戦略要地黒海に面するロシア随一の保養地

 ソチがオリンピック開催地に選ばれた大きな理由の1つは、温暖な気候を生かしたソ連時代以来随一の保養地としての名声にあろう。日本ではあまり知られていないが、スターリンの別荘をはじめとして、かつての共産党支配時代に整備が進んだ。

 特にクリミア半島がウクライナの管轄に移されたため、狭い意味でのロシア国内で最も繁栄したリゾート地である。5000メートルを超える大コーカサス山脈と黒海の間の様々な植生・気候帯の中で風光明媚な景色を楽しみながら、多様なレジャーに興ずることが可能な場所である。筆者もグルジアでよくソ連期の評判を耳にしたものである。

 一方、その政治メッセージ性も看過できない。ロシア帝国とソ連の発展における、ソチが面する黒海とその周辺地域の重要性は強調しても過ぎることはないだろう。

 日本にもなじみのある日ロ戦争時のロシア海軍の主力、黒海艦隊の名前は象徴的である。かつて主要港オデッサは様々な民族からなる活気あふれる都市で、ユダヤ人の一大コロニーも存在し、革命家トロツキーらも輩出した。ウクライナから東欧、トルコから先の中東・地中海世界を睨む、ロシアの西方・南方政策の要となる地域である。