昨年、HIVに感染した献血者の血液が日本赤十字社の検査を通りぬけ輸血された事件が大きく報道された。現在医学部5年生である私の周りでも話題となっている。

 悪い意味で注目を集めている献血事業だが、非常に重要な役割を担っている事業であることを考えると、献血に協力する若い人を増やす活動は大切である。特に運動をしている若い人、アスリートはもっと献血を活用してもいいのではないだろうか。

大学スポーツに新風を吹き込んだ虎石真弥さん

 私は2年ほど前から献血を年に数回行なっている。私が献血に行こうと思ったきっかけは、『王者の食ノート』という1冊の本を読んだことである。この本には箱根駅伝で優勝奪還を狙う東洋大学、帝京大学ラグビー部の部員たちを食事による栄養で変えるという、管理栄養士の虎石真弥さんの挑戦が書かれている。

 この本の中で、虎石さんの提案で帝京大学のラグビー部の選手全員が献血に行ったことが紹介されている。

 献血では、自分の血液を多くの人に役立てられるのみならず、赤血球数や白血球数など基本的な自分の血液のデータを得ることができる。この仕組みを利用して、献血によって数字に敏感な選手たちに血液データという数値で自分の体の状態を把握させるという取り組みである。

 ヘモグロビンの値が少ない選手には鉄を多く摂るように指導し、変化を数値で確認する。有酸素運動の能力は赤血球の数を目安にすることができる。トレーニングの効果を数値として確認することができるのである。しかも無料である。

 また、アスリートが血液検査で分かる貧血などの課題を抱えている例は意外にもよくあるそうだ。練習中にすぐに疲れたり、バテてしまったりすることがあっても大抵の場合は練習不足や精神的な問題とされてしまうことが多い。

 しかし、そうした原因が実は貧血ということもある。帝京大学の場合でも貧血の選手が見つかっていた。レスリングの吉田沙保里選手がロンドンオリンピック前に貧血の改善をするために闘っていた話も有名である。

 大学で剣道を続けていた私はこの本を読み「なるほど」と思い、献血のデータを基に自分の血液のデータを分析してみた。送られてきた検査データを基準値と照らし合わせると、一応すべて正常範囲内であったものの、総蛋白の値が下限ギリギリであることが分かった。

 総蛋白は栄養状態全般を表す値でもあるが、確かにその頃の私は飲食や睡眠などの生活習慣はかなりいい加減なものであった。日常の行いが自分の体に変化を及ぼしている自覚はなかったが、検査値を見て以降は1日に摂取する食事や就寝時間に気をつけるようになった。