各国にはそれぞれの歴史があり、長年の歴史の中で培われてきたその国家なり民族固有の行動パターンがある。それは「国柄」あるいは「国民性」と言うべきかもしれないが、なかなか変えられないし、変わらないものである。

 今回の北朝鮮での、張成沢(チャン・ソンテク)という人物の粛清劇にも、その一面が表れているように思われる。朝鮮の歴史を見ると、いくつかの特色があり、その特色が今回も当てはまるのではないだろうか。

一、脇枝は、削ぎ落とさなければならない。

北朝鮮ウェブサイト、過去記事を大量削除 張成沢氏処刑に関係か

韓国の首都ソウルで北朝鮮の張成沢・前国防委員会副委員長の処刑を報じたニュース〔AFPBB News

 王統を継承する独裁者は1人でよい。それに対抗する王族や臣下は、その能力、功績にかかわらず、いずれ粛清しなければならない。

 王位継承を巡る骨肉の争いは、歴史上どこの国でも見られる事象である。ただ、ひとたび王位が確立した後の、潜在的に王位を脅かし得る地位にあるものに対する対応には国柄が表れる。

 朝鮮では、王位を脅かし得る地位にあるものは、厳しく粛清されあるいは排除されてきた。大国中国に隣接する小国としては王権の統一が何よりも優先されたためと思われる。

 金日成(キム・イルソン)が、南労党派、延安派、ソ連派を次々に粛清し、独裁権力を作り上げた歴史は有名である。金正恩(キム・ジョンウン)は、就任当時から金日成に姿かたちから身振りまで似せようとしており、粛清という独裁権力確立の手法も真似ているのであろう。

 血のつながらない、それでいて海外、特に中国との経済利権を握っていた張成沢が粛清の対象になったのは当然と言える。いずれ起こることであった。

 その意味では、総政治局長の崔竜海(チェ・リョンヘ)も次の対象になり得る。また異母兄の金正男(キム・ジョンナム)、同母の兄の金正哲(キム・ジョンチョル)も王位を脅かし得る立場にあり、粛清の対象になり得る。

 今回は、金正哲が「護衛司令部と保衛部要員を指揮して粛清の主な役割を果たした」(イ・ユンゴル北朝鮮戦略情報サービスセンター所長)との見方もあるが、自らの地位の危うさに先手を打って行動し、金正恩への忠誠を示したとも取れる。

 金正男は中国に保護されており、北朝鮮国内での政治的影響力もないとすれば、生き残り、中国の後押しで復帰し後継指導者に祭り上げられる日が来るかもしれない。

 女の戦いも朝鮮王朝の歴史では熾烈であった。金正恩の妹・金汝貞(キム・ヨジュン)と余命幾ばくもない金正日の実妹・金敬姫(キム・ギョンヒ)、張成沢により金正恩に引き合わされたといわれる妻の李雪主(リ・ソルジュ)の間の戦いが今後熾烈になると見られる。

 今回の粛清劇でも、夫張成沢との不仲を伝えられ、麻薬中毒とも言われていた金敬姫が、夫の粛清に了解を与えたと見られる。粛清理由に、女遊びや麻薬中毒が挙げられているのが、そのことを示唆している。

 しかし金敬姫自身も麻薬中毒と言われ、重病を患い認知症ともかねて報じられている。李雪主も今年、セックススキャンダルが取りざたされ一時公衆の面前から姿を消していた。今後金敬姫と李雪主の影響力は失われ、金汝貞が台頭する可能性が高い。