予定されていたバイデン米副大統領の日本・韓国・中国訪問に時を合わせたように、中国は中国版防空識別圏(一方的制限空域宣言)を東シナ海に設定した。

 日本や韓国ではバイデン副大統領に対中圧力を期待したが、筆者周辺のアメリカ軍関係者たちが嘆いているように、バイデン副大統領は予想通りの“バランス”のとれた外交によって、日本にも(韓国にも・・・若干疑問符がついたが)そして中国にも配慮し、結果的には中国に対しては実質的には圧力をかけなかった。

 予想されていたこととはいえ、このようにアメリカの出方が甘かったため、中国共産党政府そして人民解放軍は安心して次の手を打つことができることとなった。

中国海軍空母艦隊の南下

 防空識別圏の設定宣言と時を同じくして青島海軍基地から空母「遼寧」がミサイル駆逐艦2隻とミサイルフリゲート2隻を伴って南シナ海での訓練航海に向かった。当初この空母訓練艦隊は、防空識別圏設定宣言と相まって、東シナ海を尖閣諸島方面に向かい、沖縄島と宮古島の間を西太平洋に出て台湾・フィリピン間のバシー海峡を抜けて南シナ海に至る、という挑発的行動を実施するのではないかとの憶測を伝えたメディアもあった。

 実質的には日本をターゲットにした防空識別圏宣言は、日本の圧力によって中国が自ら撤回しない限り、その空域でのスクランブルをはじめとする各種運用の実際如何にかかわらず中国が防空識別圏を設定しているという事実は存続する。したがって、中国政府にとっては防空識別圏の宣言をなした現在、それ以上の挑発的行為は、せっかく妥協的態度に落ち着いているオバマ政権の対中態度を悪化させないために無用であった。

 そして中国海軍空母訓練艦隊は、アメリカはもちろんのこと日本、それに台湾をも挑発しないように、青島から東シナ海を中国大陸沿いに航行して台湾海峡の中国大陸側水域を南下して南シナ海に抜けた。11月29日、遼寧をはじめとする中国艦隊は、海南島三亜に建設された空母用基地に到着した。この三亜空母基地を本拠地にして、空母練習艦隊は南シナ海において艦載各種資機材兵装の訓練や艦隊防空訓練それに対潜水艦戦訓練などを実施中である。