「ドイツのシーメンスを最大顧客の筆頭に、米国のアップル、GE、日本のトヨタ自動車、パナソニックなど、我々はマレーシアから世界に向けたハイテク製品を作り出すのに貢献するだけでなく、現地の雇用創出にも一役買い、現在30%の稼働率を年内にはフル稼働にできる見通し」と豪語するのは、豪州資源会社ライナスのレアアース(希土類金属)分離・精錬工場を運営する「ライナス・マレーシア」(マレーシア・パハン州クアンタン市)のマシャル・アマハド副会長兼社長。
世界最大規模のレアアース精錬工場として注目を集めたプロジェクトだが
9月26日、マラヤ大学での同氏による特別講演に招待されていた筆者は、その発言の信憑性を疑った。
当初は2011年の第3四半期に稼動させ、豪州から輸入したレアアース鉱石の精錬を始める計画だった。
そこで放射性物質を含むその鉱石を加工処理し、スマートフォン、iPod、iPadなどのハイテク製品からハイブリッドカー、風力発電施設、最新巡航ミサイルや軍事武器システムなどに用いられるレアアースを生産し、「世界のレアアース需要の約20%を供給可能になる」(同氏)ことを目論んでいた。
しかし、時同じくして、2011年3月11日の福島原発事故をきっかけに同施設の建設に従事していた技術者が工事の杜撰さを内部告発、その告発を受けたニューヨークタイムズ紙の記者が記事を執筆。
80%完成していた工事は、振り出しに戻ることになり、周辺住民の放射能汚染や健康被害懸念による建設反対運動も本格化するに至り、マレーシア政府は環境安全手順の失態で遅れていた国際原子力機関(IAEA)による調査実施を依頼せざる得なくなり、操業計画の手順は後手後手に回った。
実際の操業開始は当初計画から一年以上も経った2012年の11月30日。日本政府も積極的に融資し、最先端技術を活用し8億ドル(800億円強)もの巨額建設費が投入されて完成した工場ということで、当時、世界市場の約90%を寡占する中国以外で初の世界最大規模のレアアース精錬工場として世界から注目を集めた。
しかし、ふたを開けてみると豪州から同年11月中にレアアース鉱石を積んだ船がマレーシアに到着したものの工場施設のベルトコンベアに支障があり、稼動開始はさらに延期され、スタートしたのは12月に入ってからだった。
内部関係者によると、フル稼働の時期については、「内部で2014年1月に延期としていたが最近再修正され、さらに2015年3月まで繰り延べる見通しが確認された」という。