来年春から、国内の有名大学の講義を無料で受講、単位も取得できるという大規模公開オンライン講座MOOC(ムーク)の導入が始まるそうだ。こういった取り組みは、医学部の座学授業に導入できないのだろうか。

経済、政治、法律の知識不足を痛感

 私は大学で医学を学んでいる。将来医師になる上で必要な知識・考え方を得るために、講義の中で体の仕組みや、病気についてなどサイエンスベースのことを学ぶ機会は多い。しかし、社会の中での医療の位置づけや、社会から医療にどういったことが求められているのかをもっと知りたいと思っても、大学ではそうしたことを学ぶ機会はほとんどない。

 半年前、知り合いに紹介してもらい一橋大学社会学研究科の猪飼周平教授の授業を受けに行ってみた。そこでは、現場の医師に猪飼先生がアカデミックな視点から質問を投げかけ、生徒も巻き込んでこれからの医療の在り方について積極的な議論が行われていた。

 医学部での授業とは違った視点からの話の連続でとても刺激を受けたのと同時に、あまりにも私は経済、政治、法律などを含め世の中の仕組みを知らないのを痛感した。

 猪飼教授が執筆された『病院の世紀の理論』の中では、20世紀までと21世紀とでは、社会から医療に求められるものや医療の供給システムが「大きな転換期を迎える」ということが主張されている。

 また、『医療崩壊』などの著書で知られる小松秀樹先生は、日本の医療が崩壊の危機に瀕している主たる原因として、医療についての考え方の齟齬を挙げている。これには、死生観、人が共生するための思想、規範としての法律の限界、経済活動としての医療の位置づけ、民主主義の限界の問題が絡み合っているそうだ。

 これらのことを知って衝撃を受け、大学で医学を勉強するだけでなく、歴史を俯瞰し時代の変化を捉えて、より幅広い視点からこれからの「医療のあるべき姿」を知る、そして私たちが何をすべきなのかを考えたいと思った。

 そのために、本を読んだり、医療について有識者の方の意見を聞いたり、他業界の考え方の中で医療に生かせるものがないか探すのに、多くの時間を費やすことにした。

 学べば学ぶほど、一見医療と離れたことように思われがちな、基礎的な社会科学の知識、宗教・哲学、マネジメント・コミュニティデザイン・デザイン思考といった考え方、テクノロジーの活用などが少なからず医療と結びつくことを感じた。

 しかし、日中は大学の座学授業・実習が詰まっていて、こういったプラスアルファの学習は物理的に朝か夜しかできない。小3で始めて以来中高大と13年間続けてきた大好きな野球も、既存の授業の枠組みの中でその他の学びと両立させるのは厳しく、今年夏でいったん休部という選択をせざるを得なかった。