黒川清・日本医療政策機構代表理事監修

 1986年、米国のNCCS(The National Coalition for Cancer Survivorship)は、「キャンサー・サバイバーシップ」という新しい概念を打ち出した。それは、がんの診断・治療の後に、患者本人や家族、ケアをする人、友人など、広くがんに関係のある人々(=キャンサー・サバイバー[以下、サバイバー])が、がんと共に生き、充実した生活を送ること、と定義されている。

「キャンサー・サバイバーシップ」 がんと共に生きるという考え方

 日本でも、これまでは治療法や早期発見など、がん患者本人を中心とした医学的ながん対策に重きが置かれていたものが変わりつつある。

 例えば、厚生労働省の「がん対策推進基本計画」において、「がん患者を含む国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会」の実現を目指す、という目標が掲げられるようになったのである。

 そして、こうした動きを背景に、がんを経験した人の就労支援のほか、食事・運動・結婚・性生活・妊娠・出産・家族のケアなど、サバイバーが自分らしく生きるためにはどのようなサポートが必要かを考える取り組みが進められている。

 ここでは、これらサバイバーが直面する課題について紹介する。

日本におけるがんの実態

「日本人の2人に1人が、がんになる」
「日本人の3人に1人が、がんで死亡する」

 がん検診の啓発やがん保険の広告に使われるこれらのフレーズをどこかで聞いたことのある人も多いのではないだろうか。このように表現されるほど、がんは私たちにとって身近なものであり、私たちの生死に大きく関わっている。

 公益財団法人がん研究振興財団の「がんの統計’12」によると、2007年の罹患・死亡データに基づく累積生涯がん罹患リスクの推計は、男性が56%、女性は41%。つまり、男性・女性ともに約2人に1人が一生のうちにがんと診断されている。

 また厚生労働省の人口動態統計によると、2011年の死亡数は推計で125万3000人。死因別に見ると第1位は悪性新生物(がん)が35万7000人と、全死亡者数の約3人に1人が、がんで亡くなっている計算になる。

 実際、自分の家族や友人、親戚、同僚など、周りを改めて見渡すと、知り合いが誰もがんにかかったことがない、という人は、ほとんどいないのではないだろうか。