「山田錦」という酒米があります。かなりよい酒米として知られているコメで、生産量の8割が兵庫県で作られ、三木市とその周辺が主産地になります。

 中でも三木市の山田錦は評価が高く、価格も普通のコメより高いため、三木市では山田錦以外のコメはほとんど作られていません。そのため三木市のコメ農家は自分たちが作るコメは全量出荷して、自分たちが食べるコメは米屋で買うという珍しい習慣を持っています。

死に物狂いで山田錦用の40ヘクタールを確保

 日本酒の販売が長年振るわないこともあって、山田錦は生産量が漸減していましたが、昨年から山田錦の需要は急増します。しかし、主力産地である三木市では増産余地がありません。作れる水田では全て山田錦を作っているのです。

 増産に対応できるのは、作付規模から考えると三田市と加西市しかない。三田市を管轄に持つJA兵庫六甲の三田営農センターマネージャーは、酒造メーカーから強い要請もあって、今こそシェアを拡大するチャンスだと考え、市内の山田錦生産を増やすことを決定します。需要に対応するには約40ヘクタールの栽培面積の拡大が必要でした。

 三田市の水田面積は1700ヘクタールほど。そのうち40ヘクタールを使うと書くと簡単そうですが、三田市の山田錦部会の地区役員である私も、他の役員たちも、「ちょっと待て! 急にそんなに増やせるのか?」と半信半疑でした。

 山田錦は作りやすいコメではないため、もともと作っている人が少ないのです。その少ない人たちが増産に応じたとすると、コシヒカリなど他に作っているコメの栽培面積が減りますから、山田錦以外のコメを買って下さるお客様が必要とする量を満たせなくなります。急に増やせと言われても、簡単には応じられないのです。

 しかしJA兵庫六甲はなんとかして40ヘクタールを確保しようとします。使える策は全て使いました。今はやめているが過去に山田錦を作っていた人たちに呼びかけたのはもちろん、農家からの大反対が予想された、大規模農家のみ減反を事実上緩和するなどの施策を果敢に実行するなど、荒技を駆使してほぼ目標の100%近い栽培面積を確保します。

 そこまで持ってくるJA職員の苦労は、傍から見ていても大変なものでした。