とことん物事を理詰めで、かつ合理的に考えて行動すると、結果的にやっていることがそれまでの常識や慣習とかけ離れてしまうことがある。

 逆に言うと、一見常識外れな手を打って成功を収めている経営者は、実は本人の中では極めて合理的な判断に基づいて行動していることが少なくない。常識外れなことをやったから成功したのではなく、やっていることが理にかなっているから成功したのである。

 ミルズ(新潟県長岡市)の社長、林征司さんの経営手法は、まさにそんなケースと言っていいだろう。

 ミルズは牛乳宅配業で急成長を遂げている会社である。

 毎朝、自転車に乗ったお兄さんがガチャンガチャンと荷台を鳴らしながら、一軒一軒、牛乳を配達して回る──。そんな光景は、もうテレビドラマや映画のなかでしか見られない。今はスーパーやコンビニで、毎日、紙パック入りの新鮮な牛乳が売られている時代だ。いまどき牛乳の宅配業が成り立つのかといぶかしむ人もいるだろう。

 だが現在、牛乳宅配の需要は増えつつある。全国の牛乳販売店の数は1970年代半ば以降、下降の一途をたどっていたが、90年代半ばに下げ止まり、高齢者世帯や共働き家庭の増加などを背景に上昇基調にあるという。

 1995年に鮮魚の移動販売で創業したミルズ(創業時の屋号は「まるいち」)は、2000年に食品メーカーの明治と特約店契約を結び、牛乳宅配業に参入した。牛乳宅配業に吹いていた追い風もあるが、ミルズの成長ぶりは業界の中でも抜きんでている。

牛乳宅配業で急成長を遂げたミルズ(新潟県長岡市)

 現在は新潟をはじめ長野、栃木、東京、福岡などに約40の店舗を展開し、顧客の数は約3万8000軒を数える。牛乳以外に加工食品や高齢者向けのお弁当なども宅配し、2000年に約3億円だった売り上げは2009年度に6億円に拡大。2012年度(2013年6月期)には19億円を売り上げるまでになった。急成長を果たした店舗運営のノウハウを学ぼうと、県内外の牛乳販売店が視察に訪れる。

 ミルズの牛乳宅配のスタイルは、業界の常識、慣習を打ち破るものだった。それまで牛乳は早朝に配るものだったが、ミルズでは昼間に配る。また、宅配の頻度は週3回が一般的だったが、週に2回だけとした。さらに、牛乳宅配業として初めて社内に「コールセンター」を設置し、顧客情報や営業活動を一元管理している。

 なにも、あえて業界の慣習に逆らおうと思っていたわけではない。こうした「異端」の宅配スタイルには、林さんなりの合理的な理由があった。ミルズが業界屈指のスピードで店舗数増大と売り上げ拡大を成し遂げられたのは、その狙いが的中したからに他ならない。

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