スウェーデンをはじめ欧州、そして世界では、特に2000年初頭から「ドラゴンボール」「ナルト」「ワンピース」をはじめとする日本のマンガが大きなブームとなっている。
スウェーデンの高校で日本語を教えているが、最近の生徒は日本製のアニメやゲームなどで驚くほど多くの単語を学んでいる。
彼らの、どちらかと言うと逸脱したスラングだらけの日本語の知識と、「です・ます」体で書かれた一般的な教科書とのギャップを説明するのに、全世界の日本語教師は四苦八苦しているはずだ。
スウェーデンで2002年から開かれているアニメとゲームのフェスティバル「ネルコム」には、この夏は5000人を超える若者が集い、アニメの主人公に扮するコスプレやゲームの腕を競う催しなどを楽しんだ。筆者がこのフェスティバルの存在を知ったのは、夏休みに入る直前に生徒が数人やって来て、「センセー、浴衣持ってたら貸して下さい」と言ってきたからだ*1。
スウェーデンのマンガ翻訳家に無罪判決
「マンガ絵は児童ポルノか否か」を巡って争われていた裁判で、スウェーデン最高裁が「マンガは児童ポルノではない」という判決を下したのは昨年6月だ。これは、少女の裸体などが描写されたマンガの絵をパソコン内に保存していたマンガ翻訳家シモン・ルンドストルム氏(38)が「児童ポルノ所持」の罪で起訴されていたものだ。
これに対し、スウェーデン最高裁は「マンガはポルノ的ではあるものの想像の産物であり、現実の子供を描写したポルノではない」という判決を下し同氏を無罪とした。無罪の理由として、最高裁のヨーラン・ランべルツ裁判官は「スウェーデン憲法の言論の自由と情報の自由の原則に照らし、無罪とするのが妥当であると判断した」と話している。
国内有識者の間では、この判断は概ね「妥当な判決である」として歓迎された。一般的にも「漫画・アニメ・ゲームと現実は別物だ。きちんと区別されるべし」「被害者はどこにもいない」「実在しない人間に対して罪に問われるなら、小説や漫画の中で殺人を犯したら非実在殺人になるのか」という意見が散見された。
晴れて無罪となったルンドストルム氏は「マンガを所持していることが『犯罪』なのか? 我々は最初から馬鹿げているとは思っていた」「自分はもちろん安心したし、スウェーデン全体の法制度が守られたという点で非常によかった。マンガを描く人も読む人も、犯罪者ではない」と話している*2。
なのだが、結審した翌週、米国のエリック・ホルダー司法長官とジャネット・ナポリターノ国土安全保障長官が「安全保障に関して米国と欧州連合(EU)で協力していく」という協定を携えて欧州に乗り込んできた。この協定には「ネット上の児童ポルノを根絶する」ことが含まれているのだが、これに当時のEU議長国だったデンマークのモーデン・ブトスコウ法務相が合意のサインをしている。
*1=http://2013.narcon.se/event/cosplay/
*2=http://www.svd.se/nyheter/inrikes/mangadom-far-blandade-reaktioner_7279501.svd