上海の裏道でよく「尋ね人」の張り紙を見るようになった。行方不明になっているのは、いずれも70代前後の高齢者だ。独居老人も多い。家族にいじめられて家を飛び出した老人もいる。
ここ最近、中国でも「高齢者」問題が浮上し、様々な政策が展開されつつある。
2013年9月、国務院は高齢者サービスを加速させるための土地政策や投融資政策、免税政策などを発表した。土地政策では、新規に住宅開発する際は高齢者施設を用意すること、免税政策では、非営利の高齢者サービス機関が行う不動産や土地取得にかかわる税金あるいは企業所得税を免除すること、また投融資政策では、多くの民間企業の参入を促すために財政支援を行うことなどが盛り込まれた。
民間企業も動き出した。中国の大手不動産デベロッパーは高齢者施設の開発に意欲を見せている。また、今後は外資企業の介護サービス参入も期待される。高齢者向けサービスで世界に先駆ける日本企業にとっても、大きな市場が広がっていると言えよう。
だが、こうした動きが中国人の老後を安泰なものにするとは思えない。民間企業の参入は、あくまで富裕な高齢者がターゲットだ。公共住宅が普及する前に不動産バブルが到来してしまったように、中国では高齢者サービスもやはり「富裕な高齢者向けサービス」が優先され、庶民の手の届かないものになってしまうことは容易に想像がつく。
年金だけでは養老院に入れない
9月のある日、筆者は楊浦区に住む老夫妻の陳家を訪問した。6階建てのアパートは南向きの1LDK。ベッドを置いたらもうソファは置けないような狭さだ。筆者はパイプ椅子に座りながら缶コーラのもてなしを受けた。上海人は富裕とのイメージが強いが、まだまだつましく質素な生活を送る世帯は多い。
この老夫婦は四方山話の間にもパソコン画面に現れる緑や赤の数字に一喜一憂する。株式投資は年金生活者にとって唯一の小遣い稼ぎの手段である。
「ずいぶんご熱心ですね」と言うと、初老の旦那さんはこう返答した。
「この先は養老院暮らしだ。年金は毎月2000元しかもらえないが、養老院は月額3000元もかかる。どうしたって足りない。養老院に入るためには、この差を埋めなきゃならないんだ」