どういうきっかけだったか忘れたが、日本の食べ物の話をしている時に、「鯨刺しっておいしいんだよー」と何気なく言ったら、一瞬周囲の空気が凍ったことがある。
何でも屈託なく口に入れ、食べ物に何らの偏見を持っていないはずの夫ですら、非難のまなざしでこちらを一瞥したので、欧州では「鯨がうまい」なんていう話はタブーなのだということを身をもって悟った。この辺りで「鯨を食す」のは、非文明を象徴する未開地の野蛮人か、倫理感や社会的な感覚が欠如した人間に等しい。
欧州の鯨天国
が、鯨・イルカ保護団体(WDCS)によると、グリーンランドのスーパーでは鯨肉を販売しているし、多くのレストランが鯨寿司、鯨バーガー、鯨スパゲティなどのメニューを提供している。
アイスランドもそうだ。アイスランドも捕鯨大国で、日本にも毎年数百トンの鯨肉を輸出している。同国水産総局によると、今年の夏は、9月中旬までで89頭のナガスクジラが捕獲された。一部は輸出されるが、大半は国内で消費される*1。
デンマーク領フェロー諸島も鯨立国だ。夫の同僚に、フェロー諸島から来たという人がいる。「鯨をどうやって食べるの?」と聞いたところ、島の人たちは塩とレモン汁をかけるのだそうだ。
ノルウェーやアジア諸国も含め、海洋国家の我々は鯨資源に多くの恩恵と文明を負っている。解体された鯨のどの部位も決して捨てられることなく生活の糧となり、連綿と我々の生命となってきたのだ。
誤解を恐れずに言えば、身を挺して捕鯨を妨害しようとする狂信的な鯨保護団体よりも、我々の方が鯨を愛する気持ちは勝っているだろうと思っている。
鯨や魚類の激減は乱獲のせいか?
鯨の頭数が激減していることは世界中で報告されている。この理由として常に槍玉に挙げられるのは、「海洋国家が乱獲しているから」というものだ。捕鯨国家に対する欧米社会の風当たりは非常に強い。
8月末に、英国の環境保護団体が「アイスランドの捕鯨会社の関連会社からの英国への輸入を停止させよう」というボイコットキャンペーンを開始した。7月には、日本へ送られるはずの鯨肉130トンがオランダの辺りでUターンし、再びアイスランドの港に送り返されている*2。
*1=http://www.icelandreview.com/icelandreview/search/news/Default.asp?ew_0_a_id=402329