オバマ政権が、シリアのアサド政権による化学兵器使用の嫌疑に対する懲罰的軍事攻撃に対する国際的支持を取り付けようとして“相当必死な”努力をする中で、真っ先に支持を取り付けようとした国の1つが日本であった。

 それは「日米同盟に頼らざるをえないという弱みがあるから」というよりは、「国防戦略的に考えると、アメリカによるシリア攻撃は、日本にとって決して対岸の火事ではないから」比較的容易に支持表明を引き出せると考えたからである。

 というのは、化学戦に関係しているアメリカ軍・政府関係者や研究者の間では、オウム真理教が引き起こした数々の化学兵器物質使用事件により多くの被害者を出した日本は、国際社会で最も化学兵器の使用に対して敏感な国情であると信じられているからである。

 それに加えて、日本に軍事的脅威を加えている北朝鮮は、まさに化学兵器と弾道ミサイルによってシリアと極めて密接に結びついており、アメリカ国防当局にとって、シリア、北朝鮮、イラン(それに口には出さないが中国)はまさに“新・悪の枢軸”だからである。

 したがって、“新・悪の枢軸”の一員であるシリアに対する軍事攻撃を、“新・悪の枢軸”の北朝鮮から軍事的脅威を受けている日本が支持するのは当然であろう、とアメリカ国防当局は考えたのである。

シリアが保有する化学兵器とは

 化学兵器禁止条約(CWC)未加盟のシリアが保有する化学兵器についての公式情報は存在しないが、アメリカ中央情報局(CIA)の分析によると、シリアはマスタードガス、サリン、VXガスといった化学兵器物質を貯蔵している。それらの化学兵器物質の保有量は1000トン以上であり、シリア国内各地の50カ所以上の施設に貯蔵されている。

 CIAの分析によると、シリア軍は航空機、弾道ミサイルならびにロケット砲によって化学戦攻撃を敢行する能力を保有している。ちなみにアメリカ軍当局によると、シリアは化学兵器に加えて生物兵器も保有している6カ国(中国、ロシア、北朝鮮、イラン、イスラエル、シリア)の1つと考えられている。