9月5日午後(日本時間同日夜)、ロシア・サンクトペテルブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会議に先立ち、安倍晋三首相が中国の習近平国家主席と握手をした。両首脳があいさつレベルとはいえ、直接会話したのは初めてだ。

 日本側は「短時間だが、両首脳の就任後、直接言葉を交わした意義は大きい」とし、また中国側も「中日関係が直面する困難な状況は中国も望まない」と、決着に向けて動き出すことへの期待をにじませた。

 中国のメディアも「(中国の)大国の余裕を見せた」という評価を加えながらも、「大変礼儀のあるもので、かつリラックスしたものだった」と、前向きな報道を繰り返した。

 他方、全世界の華人向けに放送する鳳凰衛星テレビが行ったアンケート調査によれば、「この握手が今後の日中関係に影響をもたらすか」という問いに対して、「ない」との回答が87%にも上ったという。両首脳の握手ごときでは関係の修復などあり得ないということなのか。なぜそれほど否定的な見方なのだろうか。

売れていながら撤退する日本ブランド

 筆者は9月8日、上海出身の女性経営者と買い物に出かけた。彼女のお目当ての品は、1着2500元(約4万円)もする日本ブランドの下着だった。「非常によく設計されている」と絶賛し、惜しみなく大枚を叩く。

 だが、売り場で彼女を驚かせたのは、「当店はこの秋に閉店します」という店員の一言だった。そのブランドは中国から全面撤退するという。「こんなによく売れているのに撤退するなんて、私も信じられないんです」と、店員も驚きを隠さない。

 あの反日暴動から、ちょうど1年。上海の街中では、下着に限らず日本ブランドが間違いなく復活している。地下鉄の中で日本語を話しても、突き刺さるような視線はなくなった。日本料理店にも中国人客が戻ってきている。夏休みを終えた中国への帰国便は、中国人旅行者で満員だった。民間の経済活動だけ見ると、2012年9月以前に戻ったかのようにも見える。

 筆者とその女性経営者は、ショッピングの後、喫茶店に向かった。その日は何人かの中国人の中小企業経営者と合流することになっていた。

 我々が着席すると、すぐに例の日本ブランドの撤退に話が及んだ。「その日本企業は、もしかして資金凍結を恐れたのでは?」 1人の中国人男性がそう指摘すると、周囲がそれに同意した。