福島第一原発の汚染水は、東京電力の説明では300トンを超え、1日に1000トンの地下水が原発の敷地に流れ込んでいる。これが地下水から湾内へ、そして外洋に出るおそれも出てきた。原子力規制委員会は汚染水を「レベル3」(重大な異常事象)に指定し、その処理は緊急の問題になってきた。

 茂木敏充経済産業相は8月27日の記者会見で、「汚染水問題は東電まかせでは解決は困難だ」と述べ、政府が人員や資金の面で積極的な役割を果たしていく考えを示した。これは事故処理の主体を東電とし、政府は原子力損害賠償支援機構で「支援」するという今までの処理体制の変更を意味する。

「支援機構」という奇妙なスキームはなぜできたのか

 しかし福島第一原発事故が東電だけで処理できないことは、2年前から明らかだった。放射能汚染の賠償だけで5兆円を超し、除染や廃炉まで含めたコストは10兆円を超す。これを通常の発電事業から上がる利益で賄うことは不可能だ。

 民主党政権は最初「政府は費用を負担しない」という建て前で支援機構をつくったが、2012年、1兆円の資本注入で東電を実質的に国有化した。しかし東電がこれまで政府から受け取った資金の多くは交付国債による融資の形を取っており、将来は政府に返済しなければならない。

 政府は汚染水問題の処理班を結成し、汚染水が原子炉建屋に流れ込むのを防ぐための地下凍土壁を構築すると発表したが、現在の処理主体はあくまでも東電なので、国費を直接投入できない。このような処理体制には限界があり、政府が責任を持って問題の解決に当たるべきだ。

 しかし現在の「支援機構」という制度が、こうした迅速な対応を阻んでいる。国が主体になってやるためには、上場企業である東電に際限なく税金をつぎ込むわけにはいかない。発電事業をする事業会社と事故処理をする国費の受け皿会社に分離する破綻処理が条件だ。

 しかし東電の破綻処理には、銀行が強く反対している。事故当時、経産省の松永和夫次官が「銀行の債権は保全する」と約束したためだと言われている。

 なぜ松永氏は、そんな経産省に権限のない約束をしたのだろうか?