中国の常万全国防部長が8月16日から20日にかけ訪米した。2013年5月の梁光烈に続き、中国の国防部長が2年連続で訪米したことになる。ただし、2013年3月に就任した常万全国防部長と、2月に就任したヘーゲル米国防長官とは初めての顔合わせであった。
米中間では2013年4月に米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長が訪中、6月に習近平主席が訪米し米中首脳会談が開かれ、7月には米中戦略・経済対話がワシントンで開催されるなど、高いレベルの接触が続いたこともあり、今回の常万全訪米の注目度は高くはなかった。
8月19日に行われた常万全国防部長とヘーゲル国防長官との会談も、来年実施されるリムパック演習に中国海軍が初参加することが確認された程度で、目立った成果はなかったと言ってよかろう。そうしたなかで注目されたのが、会談後の記者会見での常万全の発言だった。
常万全は、アジア太平洋の領土をめぐる争議に触れ、「いかなる者も中国側が核心的利益を取引に使うなどと幻想すべきではない。我々の領土主権と海洋権益を守る決心と意志を過小評価すべきではない」と述べ、中国の領土主権問題での強硬姿勢をアピールしてみせた。
しかし、この発言はただの強硬姿勢の顕示だけではなく、中国の「方針転換」を示すものであった。つまり、中国にとって東シナ海の尖閣諸島も南シナ海の南沙諸島も、台湾やチベットのように譲歩の余地のない「核心的利益」だと明示したのである。
「集団学習会」で習近平が方針変更
もちろん、これまでも中国の当局者が尖閣諸島を「核心的利益」だと発言したケースはあった。だが、公式に記録に残すことは避けてきた経緯がある。
例えば2013年4月26日、中国外交部の華春瑩副報道局長が定例の記者会見で、デンプシー統合参謀本部議長が訪中時に中国側から尖閣諸島(釣魚島)が中国の「核心的利益」だと主張されたと日本滞在中に語ったことをもとに、記者が中国の公式な立場を問いかけた。これに対し華春瑩は、「釣魚島問題は中国の領土主権の問題であり、当然中国の核心的利益に属する」と答えた。しかし、このやりとりを掲載した中国外交部のウェブサイトでは回答が改竄され、「中国国務院新聞弁公室が2011年9月に発表した『中国の平和的発展白書』が明確に示しているとおり、中国は断固として国家主権、国家安全、領土の完全性などを含む国家の核心的利益を擁護します。釣魚島問題は中国の領土主権に関するものです」と曖昧に書き換えられた。