ロシアから諸外国への天然ガス供給を巡る紛争がまた話題になっている。

 今回はウクライナでなく、ベラルーシとの摩擦である。ロシアのメドベージェフ大統領は、ベラルーシが、滞納しているガス料金(約2億ドル)を6月21日までに支払わなければ、同国へのガスの供給を削減すると警告した。

 一方、ベラルーシは、ロシアがベラルーシに払うべき「ガス通過料」に2億ドル以上の滞納があると反発している。ロシアから欧州に供給される天然ガスの約2割は、ベラルーシを経由して輸送されている。

 ベラルーシはさらに、欧州へのガスの供給を完全にストップさせるという脅しもちらつかせている。ロシアとベラルーシの互いの言い分は真正面から衝突し、世界の注目を浴びている。

 一体、今回の騒動の裏側には何があるのか。多くのメディアが報じるように、大国ロシアの横暴なのだろうか。

冷え切っているロシアとベラルーシの関係

 ベラルーシへ供給される天然ガスの料金は、昨年は1000立方メートル当たり150ドルだった。だが、今年の政府間契約で、第1四半期には170ドルまで、現在は185ドルまで値上がりした。

 ところがベラルーシは以前のように150ドルとして支払い続けていた。ロシアが請求する2億ドルは、その差額である。ちなみにウクライナに供給されるガスの料金は、今年の3月には304ドルだった。

 欧州に供給されるガスの通過料をロシアが支払うべきかどうかは、議論の余地がある。ベラルーシはそのために必要な書類の署名を拒否している。

 以上は、両国の対立の表面的な理由である。対立を呼び起こす要因は、実はそれだけではない。

ベラルーシ、ロシアとの同盟関係を強調、米ミサイル防衛システムをけん制

ロシアとベラルーシが「同盟関係」をアピールしていた頃のプーチン大統領(当時)とルカシェンコ大統領。2007年撮影〔AFPBB News

 ベラルーシのルカシェンコ政権とクレムリンの関係は、現在「最低」とも言える状態に陥っている。ルカシェンコに対するロシアの不満は根強いものがある。

 グルジアから離脱したアブハジアとオセチアの独立を、ロシアは承認している。しかし、ベラルーシは承認せず、国交を樹立していない。今後、するつもりもない。

 また、2009年5月に、欧州連合とアルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、モルドバ、ウクライナ、ベラルーシという6つの旧ソ連共和国が、「東方パートナーシップ」という枠組みを設置した。

 この枠組みは、関税や査証の撤廃を視野に入れて、参加各国の政治・経済改革を目指すものである。着目すべきなのは、ロシアを明らかに「蚊帳の外」に置いている点だ。ロシアの影響力を弱めようという枠組みでもある。

 面白いことに、今まで欧米で「ヨーロッパの最後の独裁者」と言われていたルカシェンコ率いるベラルーシが、東方パートナーシップのメンバーに招待されている。ルカシェンコは招待を喜んで受け入れた。

 ロシアとベラルーシは以前は「同盟づくり」を宣言していたが、ベラルーシが東方パートナーシップに加盟して、両国の関係にくさびが打ち込まれることになった。

 さらに、2010年3月にプーチンがベラルーシを訪問した時に、ルカシェンコはその直前にプーチンを避けるように、ベネズエラの親友、チャベス大統領に会いに向かった。