ビジネスマンが最初の新人教育の時に聞く言葉が「ヒト・モノ・カネ」である。これは新入社員から経営者までその意味を共有できる基本的なキーワードである。

 しかし、「ヒト・モノ・カネ」ではこれからの日本のビジネス界では生きていけない。では何かというと、「ヒト・コト・モノ・チエ・カネ」になるべきだからだ。言い換えれば、マーケティングについてまったく新しい見方が必要なのである。

 それが、これからお話しする「マネジメントマーケティング」の考え方だ。マネジメントマーケティングは、市場の視点から経営を見つめ直し、マーケティングに落とし込んでいくことであり、その思想から具体的なツールのすべてを含んでいる。

 現状打開を目指してビジネスに携わる経営者・ビジネスパーソンの方々に、このマネジメントマーケティングへの理解を広め、経営・ビジネスに活用していただきたいと思い、筆者の考えを皆さんと共有することにした。

 連載第1回の今回は、自己紹介かたがた筆者の経験から従来のマーケティングを捉え直した背景と、マネジメントマーケティングの概念をお伝えしたい。

西武セゾンのグループ経営とコアコンピタンス

 20年以上ビジネス界にいる方には馴染みがあると思うが、戦後の流通業界は、従来の重厚長大産業に対する一大勢力として、カリスマ的な個人が采配を振るった企業が台風の目として暴れ回った。

 戦後の消費拡大とともに歩み、消費者の変化に対応できずに縮小したダイエーグループや、無理な海外展開で足を引っ張られたヤオハングループ、巨艦店により日本全国を制覇しようと目論んだそごうグループ、そして、文化という特徴を打ち出した西武セゾングループなどが代表的なものである。

 いずれも急成長し、その成長のアクセルをコントロールできなかったが、それは後世の客観的な評価である。渦中にあった経営当事者はアドレナリン全開の超人的な能力でその成長をコントロールしていたと言える。

 幸運にも、筆者はビジネスマン人生を流通業界に新しい文化を持ち込んだ西武セゾングループの中枢で活動することができた。西武セゾングループの代表である堤清二氏の身近にいて、事業における喜怒哀楽や、経営者として、また文化人としての側面などに触れる機会に恵まれ、学んだことは非常に多かった。

 その頃、100社を超える西武セゾングループ企業を率いる堤代表はビジネス以外でも多方面で活躍しており、海外ブランドをいち早く導入したり、パルコ、セゾンカード、無印良品、ロフトなどを立ち上げたりするなど、 企業の概念を創造する発想は常に斬新そのものだった。