ベトナムは、人口9000万人を超える大国だ。1960年からから始まったベトナム戦争ではアメリカの物量作戦に対して、甚大な被害を受けながらも1975年に勝利を収めた経験を持ち、今や国民の「しあわせ度(NEF地球幸福度指数)」が世界2位に達するまでに回復を遂げた。

 しかしながら、社会主義国であり、ビジネスの常識が通用するのか、しないのか、いま一つはっきりとしないのも事実。ASEANの中では後発グループに属するこの国は、人件費の安さは際立っているものの、そのメリットをうまく活用できるのかどうか。

社会主義国ベトナムにまるごと拠点を移したわけ

オーテック・ベトナムの林道雄会長(写真提供:筆者、以下同)

 そんな不安がある中でも、幹部クラスでそろって移住し、本拠地を東京からホーチミンに完全に移したIT企業がある。オーテック・ベトナムがそれだ。

 今回はオーテック・ベトナムの林道雄会長(46歳)に、ベトナムでの起業事情についてお聞きしたので、この場を借りて共有したい。あとに続く日本人起業家の皆さんの参考になればと思う。

――まず、海外に進出した経緯を教えて下さい。

 オーテック(ITホールディングスグループ。インテックの100%子会社)として、商品先物やFX(外国為替)の売買システムを開発し、証券会社やFX会社に貸し出すビジネスをやっていました。

 価格競争が激しくなる中で、2008年頃、コスト削減を狙って中国の成都にある企業に開発を一部移転したのが海外に目を向けた最初です。

 ところが、その後、IBMやオラクルといった巨大企業が開発拠点を成都に開き、エンジニアが一本釣りで次々と取られ、人件費も高騰していきましたので、このままではコスト削減効果がなくなると考えて、ASEANに目を向けたのです。

 もう一つの側面としては、アジア向けビジネスを拡大したいという思いもありました。やはり東京にとどまっていては、いくら出張で出ていってもなかなかビジネスが拡大しない。

 拠点まるごと移して移住するくらいでないと、アジアの皆さんに商品やサービスを売ることは難しいと思いました。ですから、沈みゆく経済大国・日本に見切りをつけて、アジアに乗り出そうという考えも大きかったのです。