先週は「数週間後にエドワード・スノーデンがどの国で何をしているかに強い関心がある」、「それは米中関係の将来を占ううえでも注目に値する」と書いた。どうやら中国は香港に飛び込んできた「時限爆弾」を巧みに取り除き、とりあえず対米関係危機回避に成功したらしい。さすがは中国、これぞ国際政治ではないか。
米国の威信を懸けた「スノーデン捕物帳」は今週舞台をモスクワ空港に移し、第2幕が始まった。ウラジーミル・プーチン大統領をも巻き込んだ米中露間の水面下の駆け引きは壮絶だ。これに比べれば、今週の日本の元首相による訪中が何と「見当違い」なことか。今週はこの日本と世界のギャップを取り上げる。(文中敬称略)
香港の絶妙な「立ち回り」
米国政府の対応は素早かった。NSA(国家安全保障局)機密情報を漏洩したスノーデンを「反逆罪」で訴追。香港政府に対し、「スノーデンを拘束し犯罪人として米側に引き渡す」よう要請。中国、ロシアその他の関係国に対しても同様の要請を行い、スノーデンのパスポートを無効とした。
これに対し、香港政府は大いに困惑したことだろう。スノーデンの来訪など寝耳に水だったはずだ。結局香港政府は、米国の「引き渡し要請」文書に瑕疵があるとしてスノーデンを拘束せず、その間に彼はモスクワに向かうことになった。
各種報道をまとめれば、当時香港政府が取った措置とその理由は概ね次の通りだったそうだ。
●米国が香港政府に対しスノーデン逮捕を外交ルートで求めたのは6月15日頃。
●6月21日、香港政府は米側要請の詳細について米国政府に対し照会を行った。
●6月23日朝、スノーデンが出国のため空港に向かった時点でも米国政府からの回答はなかった。
●従って、香港政府はスノーデンを出国させないための法的根拠を有していなかった。
一見、もっともらしい説明だが、これにはちょっと無理がある。そもそも、米側の「引き渡し要請」後6日間、香港政府はいったい何をしていたのか。香港側は米側の書類にスノーデンのパスポート番号がなく、また彼のミドルネームがJosephでなくJamesであるなど混乱があったので米側に詳しく照会していたと説明したが、こんな子供騙しの説明を誰が信じるだろうか。
第2に、なぜ6月23日まで米側に対し詳しい照会を行わなかったのか。ミドルネームの違いが問題なら、聞けば直ぐ分かることだろう。なぜ6日間も放っておいたのか。これでは、事件を「穏便に解決する」ために中国政府と相談するための「時間が必要だった」と言われても仕方ないのではないか。
こんな関連報道もある。スノーデンの香港での弁護士は、「(スノーデンは)香港政府を代表するというある仲介者から『香港当局は介入しないので、香港を去るように』と言われた。その仲介者は恐らく中国政府の指令を受けて動いていたと思われる」と述べたそうだ。