中国で最も危険な職業は何か。それは炭鉱夫ではなく、ダムや橋を建設する労働者でもない。実は、職業として最も危険なのは共産党幹部であるかもしれない。

 民主主義体制に移行していない現状では、共産党幹部の権限は日増しに膨張している。一方で何の監督・監視も受け入れないため、腐敗はとどまるところを知らない。汚職が摘発され、無期懲役や死刑の判決を受けることも珍しくない。ある調査によると、近年、法曹界も腐敗しつつあり、裁判官と副裁判官の約40%が汚職に手を染めているという。

 中国では、共産党幹部は危険性の高い人種と言われている。共産党幹部にとって昇進することはいったい吉なのか、それとも凶なのか、予測不可能である。

 北京大学の賀衛方教授(法学)は、幹部の腐敗は単なる個人のモラルの問題として追及すべきではなく、制度的欠陥を取り除くことが重要であると述べている。中国の政治体制の最大の欠陥は、独裁を是とする仕組みだ。つまり国民による監督・監視をまったく受け入れないことである。

裁判官まで腐敗、見て見ぬふりをしてきた胡錦濤政権

 これまでの10年間、政治改革は先送りされてきた。司法の独立性を担保する司法の改革は逆戻りしている。また国有企業の民営化に関しても、経済成長とともに国有部門が逆に急速に肥大化している。さらに、国民の間で富を公平に分配する制度の構築が求められているが、所得格差は予想以上に拡大している。このような改革の遅れこそ、社会の不安定化をもたらす最大の原因である。

 胡錦濤前国家主席は退任後、「自分は改革を進めようとしたが、既得権益集団の妨害により改革が失敗に終わった」との談話を発表したと言われている。この談話が事実であれば、改革が胡錦濤政権の間、停滞していたことを本人が認めたことになる。原因は既得権益集団の妨害にあったとされているが、最高権力者としての責任は免れない。

 ここで問われるのは、胡錦濤前国家主席の指導部がどこまで本気で改革を進めようとしたのかである。もしもやる気があったのに能力が足りなかったのだとすれば、それは指導者選出の制度に問題があると言わざるを得ない。