「軍隊と女性」というと、日本では橋下徹大阪市長による海兵隊と“フーゾク”に関する暴言に見られるように、軍隊すなわち男の兵士と軍隊外の女性の話題のように受け取られる向きもあると思う。だが、アメリカ軍のように軍隊内での女性の数が増加しポストも多様化してくると、軍隊内での「セクシャルアサルト」が大きな課題の1つとなってきている。

 5月25日にアメリカ海軍兵学校の卒業式でのオバマ大統領のスピーチでもセクシャルアサルトの根絶が取り上げられた。もっとも、ここで言うセクシャルアサルトには、強姦やわいせつ行為といった犯罪はもちろん、幅広い概念であるセクシャルハラスメントも含まれている。

 例えば、“不適切な接触”はもちろんのこと、異性に性的な冗談を言ったり、しつこくデートに誘ったり、身体的特徴をコメントしたり、風俗営業のような場所に勧誘したり、異性に対して口笛を吹いたり、といった具合に多種多様なセクシャルハラスメントになり得る。このため、軍隊内でのセクシャルアサルトは昨年1年間で2万6000件にも達しており、オバマ大統領が若い士官候補生に対してあえてこの問題に触れたのであろう。

女性に開かれた戦闘任務

 当然ながら、性別だけを理由にした人事異動はアメリカ軍においては立派なセクシャルアサルトの一類型となる。ただしこれまでは、他の要件と組み合わせることによって女性の配置を認めてこなかった職種も少なくない。例えば女性将兵にとって戦闘任務は実質的に閉ざされた門であった。

 しかし2013年1月24日、ペネッタ国防長官がヘーゲル長官と交代する直前に、国防総省は、基本的には戦闘任務であろうがなかろうが、性別による区別は数年中に可及的速やかに廃止するという方針を打ち出した。これまで女性には禁止されていた戦闘任務についても、多くの規制を解除した。

アフガニスタンでパトロール中の海兵隊員_手前は女性隊員(写真:USMC)

 「戦闘任務」といっても曖昧な概念であるが、もっとも厳しく女性進出を阻んでいたのが陸上における戦闘、中でも歩兵が、小銃をはじめとする小火器や、場合によっては戦闘ナイフで敵と直接命の遣り取りをする近接戦闘任務であった。

 ただし、以前より直接的な戦闘任務に就くことは規制されていたものの、幅広い任務への女性の進出は常態化していた。実際に、2001年以降2013年2月末までの期間に、アフガニスタンやイラクの戦闘地域でのアメリカ各軍の軍務に就いた女性は29万9548名であり、そのうち130名以上が戦死し800名以上が負傷した。それらの女性将兵のうち、2名がシルバースター勲章を授与されている(シルバースター勲章は、それぞれの軍種で2番目に高位の勲章で、「敵との交戦中に著しく勇敢に戦った戦闘員」に授与される)。2013年2月末日現在、1万6407名の女性将兵が、戦闘地域に展開中である。