このところ中国・北朝鮮を取り巻く情勢が猫の目のように動いている。今週だけでも、5月7日に中国銀行が北朝鮮との取引停止を通告、8日には米国防総省が中国軍事力に関する年次報告書を公表、同日は朴槿恵韓国大統領が米議会で演説。さらに、9日には中国建設銀行も北朝鮮の銀行との取引を停止したとも報じられている。
だからだろうか、最近マスコミからの取材が再び増えた。対立しているようで米中は裏で「握っている」。米国は中韓との関係をより重視し、「右傾化」が進む日本を「素通り」している。今のままでは日本の「孤立化」が進みかねない、うんぬん。おいおい、本当にそうなのか。(文中敬称略)
中国の対「北」政策の変化
各種報道によれば、中国の国有企業である中国銀行が、北朝鮮の貿易決済銀行である朝鮮貿易銀行の口座を4月末までに抹消し、取引停止したことを明らかにしたという。一部メディアはこれを中国の本格的な対北朝鮮制裁の始まりだと大きく報じた。
この分析、必ずしも正確だとは思わない。中国の対北朝鮮政策が、微妙ながら、確実に変化し始めたのは、少なくとも数カ月以上前のこと。2月12日の北朝鮮による3度目の核実験実施によって、こうした変化に一層拍車がかかったとみるべきだろう。
その典型例が欧米有力紙に掲載された中国共産党関係者の論文だ。中央党校機関紙副編集長の鄧聿文は2月27日、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙に「中国は北朝鮮を放棄すべし」と題する論文を寄稿した。北朝鮮側にとっては衝撃的な内容だったに違いない。
同論文で鄧聿文副編集長は、「北朝鮮は核兵器を中国に対する恫喝に用いる恐れがあり、中国は従来の北朝鮮との同盟関係を見直し、南北統一を促進するか、核を保有しない親中的政権の樹立を目指すべきだ」と述べていた。これだけではない。
3月7日には北朝鮮の核実験を受け安保理決議第2094号が全会一致で採択された。同決議案を主導したのは水面下での米中協議の成果だと報じられた。恐らくそうなのだろう。4月以降、中国側は、米中協議を踏まえたのか、より具体的な措置を取り始める。
例えば、あまり報じられていないが、4月17日に中国交通部が関係部局に対し、安保理決議の対北朝鮮経済制裁を「厳格に実施すべし」との通達を出している。今回の中国銀行による朝鮮貿易銀行の口座閉鎖もこれら一連の動きの一環と見るべきだろう。
以前筆者はあるコラムで「中国が本気で制裁を実施するかどうかが鍵だ」と書いた。これまでも中国は北朝鮮を一貫して擁護してきており、中国が国連安保理制裁の実効性を減じてきたからだ。その中国が今回ばかりは本当に政策を変更したのだろうか。