4月22日午後、北京訪問中の米統合参謀本部のマーティン・デンプシー議長が人民解放軍の房峰輝(Fang Fenghui)総参謀長と会談した。米統参議長の訪中は2011年7月のマイケル・マレン議長以来だが、この2年間に米中軍事交流は新たな深化を遂げつつあるようだ。
例によって、日本マスコミによる関連報道はあまり多くない。そこで今回は、近年の米中両国軍部トップ同士の接触に焦点を当てつつ、今後の米中関係の中でこうした「軍事交流」が果たす役割とその限界について考えてみたい。(文中敬称略)
統合参謀本部議長の訪中
中国の軍事力に対する懸念が顕在化したのは過去10年ほど。この間、ほぼ数年おきに米統合参謀本部議長が中国を訪問している。最初は2004年1月のリチャード・マイヤーズ、続いて2007年3月のピーター・ペイス。今回のデンプシー大将は21世紀に入って3人目の統参議長だ。
2004年のマイヤーズ訪中はよく覚えている。あの頃は北京在勤中の筆者がバグダッド出張から帰った直後。2月からのバグダッド在勤に向け引っ越し準備で慌しかった時期だ。当時のイラクは戦争「終結」後で、米軍人の主要な関心はバグダッドを向いていた。
それでも、一部の米軍関係者は当時から人民解放軍の増強を懸念していた。彼らは、対中衝突を避ける最も効果的な方法は中国軍人に米軍装備の実態を理解させることと信じていた。米軍の圧倒的優位を見せつけて、米国に対する挑戦を諦めさせようというのだ。
当時の米軍関係者の悩みは解放軍トップへのアクセス。軍トップと接触を試みても、出てくるのは毎回熊光楷・副総参謀長だった。英語は喋るが実質的権限を持たない渉外担当の副総参謀長と話しても「意味はない」、米国防総省の友人はいつもこう嘆いていた。
米軍優位を認めた解放軍総参謀長
こうした状況はその後も長く続いたが、なぜか熊光楷が引退した2006年あたりから変化し始めたような気がする。2011年5月には当時の陳炳徳・総参謀総長が訪米し、実に興味深い発言を行った。陳炳徳はマレン議長との共同記者会見で次の通り述べている。
●私は兵器・装備だけでなく、ドクトリンなども含め、米軍の洗練度に驚いている。中国は米国に挑戦する力を持っていないと言えるだろう。
I am surprised by the sophistication of the U.S. military, including its weapons and equipment and doctrines and so on. I can tell you that China does not have the capability to challenge the United States.
●中国沿岸での米軍航空機・艦船の接近偵察行動を中国は抑止と見ている。つまり、中国には米国に挑戦する能力はない、と言いたいのだ。こうした偵察活動につき、マレン議長とは率直な意見交換を行い、多くの点で意見が一致している。
The close-in reconnaissance activities along Chinese coasts by U.S. military aircraft and vessels are seen in China as a deterrent. What I'm trying to say, that we do not have the capability to challenge the United States. On the issue of reconnaissance along Chinese coasts, Admiral Mullen has had a very candid exchange of views, and we agreed on many things.
もちろん、この発言を額面通り受け取る必要はない。本音は、中国の軍事力が米国に到底及ばないのだから、米国は対中敵対行為をやめよ、というロジックかもしれないからだ。他方、総装備部部長だった陳総参謀長の発言は単なるリップサービスとも思えない。