4月10日、日台間で長く「お蔵入り」していた民間漁業交渉が遂に妥結した。日台関係を知る人なら、「日本は今頃なぜ譲歩したのか」「中国は反発しないのか」などと驚き、かつ心配したのではないか。今回はこの日台漁業取り決めが持つ意味について考えたい。

「協定」か、「取り決め」か

台湾の漁船数十隻が尖閣領海内に侵入、巡視船が放水

尖閣諸島に接近する台湾の漁船団〔AFPBB News

 のっけから細かい話で恐縮だが、4月10日、日本テレビが21時58分にネット配信した見出しは「日台漁業協定合意、官房長官『心から歓迎』」だった。わずか30分前の21時28分配信では「日台、尖閣周辺の漁業権など取り決めで合意」となっていたのに。

 片方は漁業「協定」、もう一方は漁業「取り決め」、一体どう違うのか。日台では「取り決め」が正解。ちなみに、同じ発音でも「トリキメ」には「取極」と「取り決め」の2種類ある。日台の場合は「取極」ではなく、あくまで「取り決め」が正しい。何ともややこしい話だ。

 なぜ日台は「取り決め」なのか、種明かしをしよう。「協定」とは国際法上の「国際約束」であり、通常は主権国家または公的国際機関などと結ばれる。日本にとって台湾は「国家」ではないので「国際約束」ではなく、民間の「取り決め」しか結べない。

 一方、同じ「トリキメ」でも「取極」は国際約束であり、国際法上拘束力がある。今回のトリキメは、あくまで日本側「交流協会」と台湾側「亜東関係協会」間の約束だから、国際法上の拘束力はない。だから、日台間では漁業「取極」という用語も使われない。

 以上だらだらと書いてしまったが、筆者の言いたいことは1つだけ。

 日台の基本は「非政府間の実務的関係」の維持であり、この点は今回の「取り決め」後も変わらない、ということ。4月10日、中国外交部の洪磊報道官が今回の「取り決め」署名に「不快感を表明した」と報じられたが、何が「不快」なのか筆者にはよく分からない。

「重大な懸念」か、「関心の表明」か

 さらに、同報道官は日本と台湾の漁業取り決め締結に「重大な懸念」を表明したという。一体何が御不満なのか。日本側は1972年日中国交正常化以来の台湾の取り扱いを一切変えていない。だからこそ合意文書は「協定」ではなく、「取り決め」なのではないか。