韓国の李明博政権は、成長戦略の柱として「ウォン安」政策を進めた

 2013年4月5日、韓国の国策銀行である韓国産業銀行(KDB)と持ち株会社の産銀金融持ち株会社の会長を兼務する姜萬洙氏(カン・マンス=67)が退任した。

 同氏は、李明博(イ・ミョンバク)前大統領の側近にして経済政策のブレーン。特に「ウォン安政策」の強力な推進者として知られた。政権交代で、任期を1年残して「ミスターウォン安」は静かに去ることになった。

 「去り際はきれいに。何も言うことはない。公務員時代にも同じ役職に3年いたことはないしね・・・」。離任式を終えた姜萬洙氏は、取り囲んだ韓国の記者たちに言葉少なく語った。翌日の新聞に載った写真はしかし、「さばさばした表情」とは言い難く、「仕事師」として任期途中で去ることへの無念さも漂った。

「747政策」を掲げた李明博政権のブレーン

 2007年12月。李明博氏の大統領選挙当選で、姜萬洙氏は華麗な復活を遂げた。同氏は1998年に財政経済院(現在の企画財政部)次官を退任した後、これといった「天下り」の恩恵を受けず、静かに過ごしていた。

 そんな姜萬洙氏に声をかけたのが、大統領選挙への準備に動き出したばかりの当事のソウル市長、李明博氏だった。

 姜萬洙氏は、経済政策のブレーンとなり、2007年の大統領選挙の公約作りの責任者を務めた。これが有名な「747政策」だ。

 年率7%の経済成長、1人当たり国内総生産(GDP)4万ドル、世界7位の経済大国――。姜萬洙氏が作った政策は「韓国経済を立て直す」ことを掲げた李明博氏にぴったりの超強気の成長戦略だった。

 2007年12月に李明博氏が大統領選挙で大勝すると、姜萬洙氏は「大統領職引き継ぎ委員会」の経済分野の責任者になる。さらに2008年の政権発足とともに企画財政相に就任した。李明博政権の経済政策の事実上の最高責任者と言われ、政権内で大きな影響力を持った。

 姜萬洙氏の「成長戦略」の中核は、「ウォン安戦略」だ。韓国政府は一貫して市場操作を否定するが、姜萬洙氏は李明博政権の発足前から「ウォン安」の重要性を強調した。

 韓国経済の主役は輸出型の大企業や財閥だ。ウォン安こそが韓国経済を成長させ、結果的に国民の生活を豊かにする。李明博氏と姜萬洙氏の一致した考え方だった。実際、李明博政権発足後、急速なウォン安が進み、これと並行して大企業の利益も膨らみ続けた(「とどまることを知らぬ韓国大財閥の規模拡大」参照)。