長らく懸念されていたH7N9型鳥インフルエンザによる死亡事件が遂に中国で起きてしまった。英国の科学誌は鳥の体内で3種類のウイルス遺伝子が混合した可能性を示唆している。4月4日の本邦全国紙朝刊は1面、2面で関連ニュースを大きく報じた。

 厚労省は既にウイルスの遺伝子情報分析を開始し、ワクチン製造に向けた準備も始めたという。また、中国と定期空路を持つ地方自治体などでも警戒感が高まっているそうだ。さすがは日本、対応が早いと感心する一方、ふと10年前のSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome=重症急性呼吸器症候群)騒動のことを思い出した。

いま起きていること

中国、鳥インフルで新たに1人死亡 死者3人に

中国東部・山東省にある養鶏場〔AFPBB News

 3月31日、中国の国家衛生計画出産委員会は、上海市の男性2人と安徽省の女性が鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)に感染し、男性2人が死亡したと発表した。H7N9型のヒトへの感染が確認されたのは初めてだという。

 報道によれば、87歳の男性は2月19日に発病して3月4日に死亡、また別の27歳の男性は2月27日に発病、3月10日に死亡したという。

 これが正しければ、ウイルス検出と感染確認までに最初の発病から40日、最初の死亡から27日を要したことになる。

 同委員会は今回の感染につき世界保健機関(WHO)や関係国・地域に通報するとともに、4月3日には「(感染拡大は)国民の健康や社会発展を脅かす」と発表し、全国の衛生当局に徹底した情報公開と検査強化を指示したという。

 香港では政府が空港で入境者の体温チェックを強化。台湾でも中国からの旅行者に対する健康チェックを強めているらしい。上海の日本総領事館は在留邦人に対し、鳥や家畜に近寄らず触らないなど感染予防を呼びかけている。

2003年のSARS騒動

 こうした動きを見ていると、どうしても10年前を思い出す。当時筆者は北京の日本大使館に勤務しており、例のSARS大流行の際のパニックをこの目で目撃したからだ。

 2003年当時、筆者の娘は北京インターナショナルスクールに通っていた。北京市政府が噂されていたSARSの流行を認めたのは3月末のこと。しかも、感染者数、死亡者数などの詳細を過小発表(というか隠蔽)した疑惑が表面化し、北京市内は大騒ぎとなった。

 中国政府がSARSに関する「正しい」情報を渋々発表し始めたのは4月20日、確か当時の衛生部長と北京市長が更迭されたと記憶する。筆者の周囲ではあらゆる流言飛語と疑心暗鬼が飛び交い、何を信じていいか本当に分からなくなった。思い出すだけでもぞっとする。